太田新田歯科医師会スタッフスキルアップセミナー

平成29年度 太田新田歯科医師会スタッフスキルアップセミナー

「歯科衛生士 安生朝子の考え方 2017」

講師 歯科衛生士 安生 朝子 先生

栃木県 藤橋歯科医院 ㈱ジョルノ代表

日時 平成29年11月23日(木) 10:00~12:00
会場 宝泉行政センター

太田新田歯科医師会では、歯科医院に勤務するスタッフへ向け毎年セミナーを開催しています。今年度は中央医療歯科専門学校、太田医療技術専門学校と共催にて、歯科衛生士 安生 朝子先生にご講演をしていただきました。

太田新田歯科医師会スタッフスキルアップセミナー

講師 安生先生は、歯科界では名前を知らない人はほとんどいないスーパー歯科衛生士です。全国各地で講演会をされています。当日は約270名の方に参加いただき会場は満員でした。「歯科衛生士 安生朝子の考え方 2017」という演題で以下のテーマについてお話されました。

  • 歯科医療チームの一員であること―コミュニケーションとは?
  • 歯周基本治療の進め方―保険と時間と信頼とは?
  • メンテナンスとSPT―検査と実際そして予後は?
  • 他科との連携―超高齢社会の中で何ができるか?

多岐にわたる内容でしたが、患者さんを迎えるにあたりスタッフ全員が診療室の目配り、気配り、聞き配りを常に意識し患者さんへ接していくことの大切さ、歯科衛生士として歯科医院でのあり方を経営の点からお話くださいました。

歯科衛生士 安生 朝子先生

また歯科衛生士になり35年、「長期メンテナンス」が先生の主な歯科臨床となっています。最高に長くメンテナンスをされている患者さんは30年以上とのことです。子供の頃からみている男の子に彼女ができたことにより口腔内のプラーク状況が変わったことを例に挙げ、長期メンテナンスを行う中で患者さんの状況は変わり、必ずプラークコントロール、咬合、歯周組織の状態に変化がみられ、その時々の患者の状況・ライフステージを理解し、長期メンテナンスは決して漠然とクリーニングをし続けることではなく、口腔内の変化に気づき見抜いていくことが歯科衛生の役割であり、臨床の面白さであることを強調されました。

高齢社会を迎え、根面う蝕の増加、義歯のメンテナンスの重要性、またご自身の親の介護を通し、食の考え方についても先生の考えを聞くことができました。

約2時間にわたる講演でしたが、診療に対し真剣に患者さんと向き合っているからこそ診療に対する姿勢(マナーや時間配分)などの厳しいお話もあれば、時に笑いもあり、先生のお話に引き込まれた講演会でした。

今回の講演会を通し、歯科医院のスタッフに良い刺激となり患者さんに長期に寄り添っていけるスタッフとなっていただければと思います。

スキルアップセミナー

文責 太田新田歯科医師会 学術医療管理委員会 渡木 澄子

1. はじめに

介護保険制度が施行され5年目を迎かえ、見直しの論議が進んでいます。
その際の見直しの基本的視線として
「制度の持続可能性」
「明るく活力ある超高齢化社会」
「社会保障の総合化」
の3点が検討されています。
そこで、高齢者の心身機能、活動、参加といった生活機能の低下を予防して、要介護状態に陥らない、
あるいは状態が悪化しないようにすることを重視する「予防重視型システム」への切り替えが求められています。
特に、「明るく活力ある超高齢化社会の構築」においては、「食事」への問題提起がなされ、
「口腔機能向上」が「介護予防」のための新たなるサービスとして検討されています。
口腔機能向上によって十分な食事量を確保し、「低栄養」の防止に役立てる。
また、「誤嚥」や「窒息」を予防し誤嚥性肺炎や不慮の事故を防止することを目的としています。
さらに、口腔衛生の自立や清潔度の改善は口臭の予防や味覚の改善、
誤嚥性肺炎など気道感染の予防に寄与することが期待されています。
これらは、高齢者のQOLという観点からも重要な課題と考えられています。

2. 高齢者の口腔機能の重要性

1) 高齢者の窒息と口腔機能
毎年、多くの高齢者が食べ物を喉に詰まらせ亡くなっています。
その数は家庭内の事故で最も多く、年間に6800人にもおよび、毎年増加しています。
自宅で介護を受ける高齢者300名に対し調査を行ったところ、
約1割の者が過去1年間に食物による窒息を経験していました。
窒息のリスク因子を検討したところ、脳血管障害の既往(オッズ比=4.1)、
摂食嚥下機能(オッズ比=3.4)、向精神薬の服用(オッズ比=2.8)の有無が挙げられました。
いずれも、口腔機能に深く関わるもので、口腔機能向上の必要性が浮かび上がってきます。

2) 気道感染と口腔機能
 高齢者の多くは誤嚥性肺炎をはじめとする気道感染で命を落とします。
誤嚥性肺炎の原因は感染源として口腔内細菌叢の悪化が挙げられます。
口腔機能の低下や口腔ケアの自立の低下は口腔内細菌叢の悪化を招くことが知られています。
また、感染経路として嚥下機能の低下、咳嗽反射の低下が挙げられます。
さらに、高齢者に多く見られる抵抗力の低下は低栄養が原因である場合が多く、
いずれも口腔機能と深く関わっています。