介護予防における口腔ケアの 役割
日本歯科大学付属病院 口腔・介護リハビリテーションセンター長
菊谷 武
日本歯科大学付属病院 口腔・介護リハビリテーションセンター長
菊谷 武
介護保険制度が施行され5年目を迎かえ、見直しの論議が進んでいます。
その際の見直しの基本的視線として
「制度の持続可能性」
「明るく活力ある超高齢化社会」
「社会保障の総合化」
の3点が検討されています。
そこで、高齢者の心身機能、活動、参加といった生活機能の低下を予防して、要介護状態に陥らない、
あるいは状態が悪化しないようにすることを重視する「予防重視型システム」への切り替えが求められています。
特に、「明るく活力ある超高齢化社会の構築」においては、「食事」への問題提起がなされ、
「口腔機能向上」が「介護予防」のための新たなるサービスとして検討されています。
口腔機能向上によって十分な食事量を確保し、「低栄養」の防止に役立てる。
また、「誤嚥」や「窒息」を予防し誤嚥性肺炎や不慮の事故を防止することを目的としています。
さらに、口腔衛生の自立や清潔度の改善は口臭の予防や味覚の改善、
誤嚥性肺炎など気道感染の予防に寄与することが期待されています。
これらは、高齢者のQOLという観点からも重要な課題と考えられています。
1) 高齢者の窒息と口腔機能
毎年、多くの高齢者が食べ物を喉に詰まらせ亡くなっています。
その数は家庭内の事故で最も多く、年間に6800人にもおよび、毎年増加しています。
自宅で介護を受ける高齢者300名に対し調査を行ったところ、
約1割の者が過去1年間に食物による窒息を経験していました。
窒息のリスク因子を検討したところ、脳血管障害の既往(オッズ比=4.1)、
摂食嚥下機能(オッズ比=3.4)、向精神薬の服用(オッズ比=2.8)の有無が挙げられました。
いずれも、口腔機能に深く関わるもので、口腔機能向上の必要性が浮かび上がってきます。
2) 気道感染と口腔機能
高齢者の多くは誤嚥性肺炎をはじめとする気道感染で命を落とします。
誤嚥性肺炎の原因は感染源として口腔内細菌叢の悪化が挙げられます。
口腔機能の低下や口腔ケアの自立の低下は口腔内細菌叢の悪化を招くことが知られています。
また、感染経路として嚥下機能の低下、咳嗽反射の低下が挙げられます。
さらに、高齢者に多く見られる抵抗力の低下は低栄養が原因である場合が多く、
いずれも口腔機能と深く関わっています。
1) 清掃面の効果
口腔清掃を中心としたケアは、口腔細菌叢の正常化に寄与することが多くの研究で明らかになっています。
さらに、感染経路対策として嚥下機能や咳嗽反射の低下に対する対策が重要ですが、
最近、口腔清掃を継続して行うことで口腔への刺激が加わり、
嚥下反射や咳嗽反射の賦活化が見られることが報告されました。
つまり、口腔清掃を中心とした口腔ケアは誤嚥性肺炎に対する感染源対策ばかりでなく、
感染経路対策にも重要であるといえます。
2) 機能面の効果
要介護高齢者に対する口腔機能向上訓練は、より機能の低下を示している者に対しても効果的で、
比較的低下の程度が低い者に対してはその機能を維持する効果が認められています。
要介護高齢者は低栄養を示す者の割合が高いことが知られています。
口腔機能の低下は低栄養の一因となります。
私達は、口腔機能の向上は低栄養対策の重要な方法と考え、いくつかの試みを行っています。
そして、口腔機能向上の試みは栄養改善に対し一定の効果を示すことを確認しました。
施設に入居する高齢者に対する栄養ケアアセスメントの重要性が論じられ、
栄養ケアマネジメントや経口摂取への移行に対する評価の可能性が検討されています。
これらは、口腔機能、摂食機能との関連無くしては遂行できないと考えています。
以上のように、豊かな老後への条件は、高齢になっても口腔の機能を維持し続けることであると考えています。
本講演では、口腔機能の維持のための口腔ケアの重要性をお話します。