「間食とむし歯予防」

 日常の診療の中で患者さんから、「毎食後しっかり歯みがきをしているのに、こんなにむし歯になるのは歯の質が弱いのでしょうか?」という質問をしばしば受けることがあります。これは、様々な条件にもよりますが、歯の質が弱いと言うより砂糖の摂取方法、いわゆる間食(おやつ)の取り方に問題があることが多いようです。

今回は「間食の取り方とむし歯予防」について解説いたします。

 私たちの口の中には様々なたくさんの細菌が住み着いています。中でもむし歯の原因菌と言われているミュータンス菌が主役となり、食べ物の中の糖分をもとに、ネバネバしたデキストランという物質を作り細菌とともに歯の表面にこびりつきます。これを歯垢(プラーク・バイオフィルム)と言い、細菌が生活していく住み家となるのです。その住み家でミュータンス菌が砂糖を分解して有機酸を作り、歯の表面を僅かずつ溶かし初期むし歯ができ始めます。

しかしながら、口の中には常に唾液が存在していて、摂取した糖分を洗い流すとともに、一度溶け出したカルシウムイオン成分を歯に再吸着させる作用があります。このように、歯の表面で溶解と再吸着が繰り返されながら行われるため、むし歯に進展せず歯質が保たれています。そして、この一連の作用は砂糖摂取後約三十分の間に起こると言われています。

むし歯はこの均衡が破られ溶解に対して再吸着が追いつかなくなると、少しずつ穴が開き始めてむし歯になっていくのです。つまり再吸着する前に再度砂糖を摂取するとむし歯が徐々に大きくなってしまいます。以上の事から、むし歯予防は間食の取り方がキーポイントとなります。

おやつの‘ダラダラ食い’などはむし歯になりやすい一因となります。お子さんがお菓子やジュースを飲みながら遊んでいたり、砂糖の入ったコーヒーなどを飲みながら勉強や仕事をする姿を見たことがありませんか?

むし歯予防のためにこのような間食の取り方は改善しましょう。

 

                太田新田歯科医師会

                     梅澤 義一

矯正治療を受けられる前に正しい理解を ~大人と子供の治療の違い~

矯正治療とは、悪い歯並びや咬み合わせを、きちんと咬み合うようにして、きれいな歯ならびにするための歯科治療です。矯正の先進国アメリカ、ヨーロッパでは成人する前に60%もの人が矯正治療を受けます。日本でも年々着実に増え続けています。また、歯並びについての関心も高まり、成人されてから来院される方も増加傾向にあります。しかし、正しい知識を持たずに治療を受けられる方も多く、再治療を希望され来院される方が年々増加傾向にあります。

不正咬合は単純に歯の並びが原因とする疾患ではなく、上顎骨(上あご骨)と下顎骨(下あご骨)の大きさの違いから生じている場合が多い疾患(上顎前突症や下顎前突起症、上下顎前突症、開咬症、過蓋咬合症など)です。

同じ下顎骨の劣成長による上顎前突症(出っ歯)でも成長期にある子どもの矯正治療と全ての歯が永久歯である大人の矯正治療では、治療アプローチが異なります。一般的に矯正治療は一本一本の歯に矯正装置とワイヤーを用いて行う治療と認知されています。このような矯正装置は、主に大人の矯正治療で用いられます。大人の矯正治療で上顎骨と下顎骨の前後的な大きさの違いを改善するには、一般的に上顎の左右側第一小臼歯抜歯を行って、前歯を後退させる治療が多く選択されます。一方、子どもの矯正治療では、乳歯から永久歯への交換期にある時期は成長を利用して、上顎骨と下顎骨の前後的不調和の改善がきる大切な時期です。成長をコントロールすることができる時期は限られています。治療は骨格の治療を行う一期治療(フェーズ1)と骨格の改善がなされた後に歯並びのみの治療を行う二期治療(フェーズ2)の二段がまえの進め方をします。治療は一人一人の成長発育を見極めて行います。特に上顎骨と下顎骨の前後的不調和が原因の場合には早期の骨自体への治療が重要です。このような骨格をコントロールする治療を顎矯正治療と言われています。顎矯正治療が可能な時期は約7歳から11歳です。顎矯正治療はすべての不正咬合に適用できます。おもに機能的矯正装置を用いて治療が行われます。低年齢から一期治療を行うことによって過剰発育にある骨の抑制や劣成長にある骨の前方成長促進が可能であり、二期治療における小臼歯抜歯の回避や治療期間の短縮化が期待できます。このような顎矯正治療の適用には正確な診断による治療計画と適切な矯正装置の選択、効率的な手法が大切です。また適用できる時期も限られていることから、治療に関してより深い理解を持ってから治療を受けられることが大切であると思われます。

 

 

二次う蝕とは?

 治療ずみの歯が、また虫歯になってしまったという経験はありませんか?

詰め物やかぶせ物のある歯の下や周囲にふたたびむし歯ができることを「二次う蝕」といいます。

 二次う蝕は、ふつうのむし歯と同様、細菌が出す酸によって歯の表面のカルシウムが溶けることによっておこります。お口の中には、常に水分があり、熱いものを飲んだり、冷たいものを食べたりと、急激な温度差にさらされます。しかも数十キロにもおよぶかむ力も加わります。こうした条件のもとで、詰め物、かぶせ物と、歯の境目に隙間が生じることがあります。また詰め物と歯には素材の性質に違いがあり、境目にギャップを生じることがあります。こうしてできた隙間から、細菌や酸は入り込みむし歯をつくっていきます。

 歯がしみたり、痛んだりして気ずき来院される方もいますが、詰め物、かぶせ物の陰に隠れて進行するため、なかなか発見しにくいのが特徴です。気が付いたときには、進行していて歯を抜かなければならないこともあります。

 二次う蝕、つまり、やりなおしの治療を繰り返していると、結果的に歯を失うことにつながります。

 「治療をしたから、これで大丈夫」と油断しないでください。治療は、たんに壊れた歯の修理をしただけです。歯が壊れたもとの原因、つまり、細菌を取り除かなければ、再び細菌感染を起こし、むし歯ができてしまいます。治療した歯の隙間には、細菌が入り込みやすく、汚れがたまりやすくなっています。

 そこで、この二次う蝕を防ぐにはどうすればよいか。セルフケアと、メインテナンスが一番重要となってきます。

 歯科医院で、セルフケア、つまりブラッシングなどの指導をしてもらい、定期的にメインテナンス、クリーニングをうけてください。フッ素による予防処置も大切です。このことで、お口の中が清潔に保たれていると、細菌の数が減り、むし歯になりにくい環境へとお口の中が変わっていきます。このことにより、二次う蝕を含めたむし歯を、効果的に予防することができます。

フッ素の上手な使い方

 フッ素についてはよく耳にしたり、歯医者さんで定期的に塗ってもらっている人も多いと思います。

むし歯の予防としてフッ素を使用する方法としては、

1・フッ素入り歯磨き粉 2・フッ素洗口 3・歯科医院でのフッ素塗布などがあります。

 

フッ素入り歯磨き粉は、誰でも簡単に入手でき、簡単にむし歯予防に応用できます。

歯の萌出(6カ月頃)から使用して大丈夫です。但し、6カ月~2歳位までは切った爪

程度の少量のみの使用とし、3~5歳で5㎜以下、6~14歳で1㎝程度、15歳以上で

2㎝程度という目安で使用して下さい。いずれの場合も就寝前が効果的で、うがいが

できる子であれば歯磨き後10~15mlの水で5秒程度ブクブクし、うがいは1回のみで

その後は飲食はしない様にして下さい。フッ素入り歯磨き粉のむし歯の予防効果は25~40%と比較的高いです。

 

 フッ素洗口とは、低濃度のフッ素の洗口液を使い、毎日30秒~1分ブクブクと洗口して、あとは吐き出してもらうものになります。保育園や幼稚園の永久歯萌出直前の

4・5歳時から中学校までの継続実施により、45~80%ととても高いむし歯予防効果を認めています。

フッ素洗口の使用はむし歯予防効果が最大限に発揮できる4~14歳児までの継続利用が推奨されています。その理由は、永久歯の萌出時期であり、萌出したばかりの歯は未成熟な為、むし歯になるリスクが高いからです。

 またそれ以外に矯正を行っている方や成人の方の知覚過敏の予防、お年寄りの方などで

歯ぐきが下がり、歯の根が出てきている部分の根面う蝕の予防など幅広くむし歯の予防に

使用する事ができます。ご希望される方は歯医者さんで相談して下さい。

 

 歯科医院でのフッ素塗布については、歯磨き粉やフッ素洗口と違い高い濃度のフッ素を

年に3~4回定期的に塗布してむし歯を予防するものになります。始める時期については

歯医者さんと相談して下さい。

 

これらの方法を併用していく事によりむし歯になるリスクはかなり抑えられると

思います。但し、フッ素を使用しているからと過信しすぎて歯を磨かないという様では

むし歯になってしまいますので、きちんと毎日歯磨きをして、補助的にフッ素を使う事を

お薦めします。

6月4日はむし歯の日?

 6月4日はむし歯の日としてよく知られています。これはお偉い方が初めてむし歯になった、あるいは治したのを記念した日、ではなく。甘いものを国民に食べさせて国民をむし歯にして、それを治すことによっておかねもうけしようという悪い歯医者の策略で出来た日、でもありません。

 1928年に日本歯科医師会がむし歯予防デーとしてその読み方にちなんだ記念日を6月4日に決めました。ちなみに先ほど言いましたように、6月4日はむし歯の日ではなく、むし歯予防デーが正しいのです。これは、先ほどの悪い歯医者が、『むし歯を呼ぼうでー』といっているのではなく、むし歯を予防するための日、という意味です。

この時期は新年度がはじまって少し経っていて歯科健診の時期としても適当でしたので、1939年からは文部省および厚生省の共同管理となりました。1955年からは「歯の衛生週間」が、6月4日から6月10日までもうけられ、大体そのあたりに学校健診をしたことから、日本国民に浸透したと思われます。

 この6月4日はむし歯を予防するための記念日ですが、最初にお話したようにむし歯の日として誤解を与えそうだということもあり、別の4月18日が「良い歯の日」として1993年に日本歯科医師会によって制定されました。また同時に、11月8日を「いい歯の日」と制定したのも日本歯科医師会で、同じような記念日を二つ設けるとはちょっと節操がないようにも思いますが、制定したのには間違いありません。11月8日には日本歯科医師会主催でベストスマイルオブザイヤーの授賞式も行われます。

 さて他の歯科に関わる記念日と言えば、日本矯正歯科学会は同じ11月8日を「いい歯並びの日」と制定しています。主催者が変われば呼び名も変わるということでしょうか。同じ矯正関係でも日本臨床矯正歯科医学会は8月8日を歯が並んでいることから「歯並びの日」と制定しています。また佐藤製薬は11月8・9日をいい歯ぐきとし、歯ぐきのケアの大切さを説くために「歯ぐきの日」と制定してPRイベントを行っていますし、サンスターは毎月8日を「歯の日」と呼び販売促進のために力を入れようとしています。

その他、歯科に関係する記念日としては、全国保険医団体連合会が提唱した「保険で良い入れ歯を」運動のために、10月8日の「入れ歯デー」が定められています。驚いたことに5月2日は「歯科医師記念日」となっています。何でも1957年の歯科医師法施行にちなみ制定されたとか。しかし制定されているからと言って何か特別なことがあるようには見うけられません。

たいていの○○の日というのは、昔からのしきたりや、言い伝えが無い限り、その関係者が言い出す、言い始める、悪く言えば『でっち上げる』事が多いようです。それに、たとえかなり昔から神話のようなものがあったとしても、その言い伝えは原始時代からあるわけではないのだから、誰かが言い出したのに違いありません。歯に関する記念日は、ほとんどが建国記念の日のような神話に基づいた記念日というよりは、どうも語呂合わせで決められた日ばかりのようです。このことから、日本には歯に関する神話が無かったのだとも分析できますし、歯医者は昔から親父ギャグが好きだったのだ、とも分析できます。よく考えて見れば歯科医師会はおじさんの集まりですね。

しかし、たとえ寒い語呂合わせでも、語呂合わせは覚えやすく、覚えやすければ国民に浸透しやすく、浸透すれば歯の健康等をアピールしやすく、アピールしやすければ国民への歯の大切さの啓発になり、結果的に国民の幸福と富に患者の掘り起こしにもつながりますので、決して悪いことではないと思います。