人もロバも、良く噛めば元気百倍!!

皆さんの好物がリンゴやせんべいだとしたら、当然、歯が丈夫でないと駄目ですよね。

これからお話しするのは、歯が弱って好物の人参を食べることができなくなってしまった

ロバに世界で初めて入歯を入れたお話しです。

日華事変の起きた1940年ごろ、中国の戦場で働く一匹のロバがいました。このロバの名前は一文字号。日本軍の物資輸送で活躍した一文字号は、老後は穏やかに過ごしてほしいと上野動物園に寄贈されました。上野動物園では、子供たちを乗せた馬車を引いて人気を集めていましたが、1962年のある日ポップコーンを喉に詰まらせて死にそうになりました。喉に詰まった原因、それは歯が悪かったことでした。

もちろん大好きな人参も食べられないので、すっかり元気がなくなってしまいました。ロバの年齢は27歳、人間でいえば80歳強になります。歯が悪くなってもおかしくない歳ですね。その様子を見て心を痛めた周りの人たちは、どうにか元気を取り戻して欲しいと知恵を絞り、入れ歯を作ってあげたらどうか?という結論に達しました。

そこで、動物のために入れ歯を作るという前代未聞の作業を、無理を承知で歯医者さんに頼みこんだそうです。幸いにも引き受けてくれた歯医者さんによって作られた特注の入れ歯は、一文字号に贈られました。一文字号は入れ歯を口にはめられるやいなや、与えられた人参をバクリ!!

ここで不思議なのは、口にはめられた異物が入れ歯と知るはずもないのに、「これで噛める!」という認識を一文字号がすぐにしたことです。咀嚼の感触を本能的に取り戻したのでしょう。この後、一文字号は入れ歯のお陰で健康を取り戻し、子供たちにもかわいがられながら過ごしたそうです。

人間にとっても動物にとっても、食べ物をよく噛むことが健康の基本であり、好きなものを食べることができると言うのは本当に幸せなことです。いろいろな調査の結果では、歯の本数と実際に食べている食品の種類の多さには関係が深く、歯が多く残っている人はいろいろな種類の物を食べていることが分かっています。

歯のない人は食べられるものだけを食べていて、食べ物の種類も少なく栄養のバランスも取れていないことが多いようです。フランスパン、堅焼きせんべい、たくあんや繊維質の多い野菜等、噛めば噛むほど味わい深くなる食品は、18〜28本の歯がないと美味しく噛むことが難しいと言われています。

20本以上の歯があれば食べるものの硬さ、大きさを制限することなく豊かな人生を歩めますね。いつまでも健康で大好きな物を自分の歯で食べられるよう、毎日のお口と歯のケアを心がけましょう。

 

 

参考資料・・・(財)東京動物園協会発行「どうぶつと動物園」1964年2月号