市民公開講座

第15回市民公開講座開催のお知らせ

20141115

 

市民公開講座

超高齢化社会を迎えた日本。高齢者の割合が増えるということは有病者の割合も増えるということで、例えば70歳以上の約7割が高血圧といわれています。そこで厚労省は”健康寿命”という考え方を提唱し始めました。

ただ長生きするのではなく、寝たきりにならずQOLの高い暮らしを送って欲しいということです。今回の市民公開講座では高齢者がかかりやすい病気の一つ”骨粗鬆症”を取り上げます。”骨粗鬆症”になると骨折しやすくなり、QOLを著しく低下させます。では”骨粗鬆症”とは一体どんな疾患なのか。

医師の立場から鹿山整形外科・鹿山富生先生に解説していただきます。次に”骨粗鬆症”に対して有効な薬”ビスフォスフォネート製剤”について薬剤師の立場から中央薬局・長谷川史朗先生に薬の特徴、使用上の中などについてお話いただきます。

そして最後に群馬県立がんセンター口腔外科部長・山根正之先生に薬の服用と口腔ケアについて解説していただきます。近年、ビスフォスフォネート製剤服用者の抜歯術後に顎骨壊死が生じた例が報告されています。

疾患や薬に対する正しい知識を持っていただくと同時に日頃の口腔ケアの必要性、重要性をご理解いただければ幸いです。

第14回市民公開講座

第14回 市民公開講座 開催報告

日時 平成25年11月16日(土) 午後2:00~午後4:00

場所 太田市宝泉行政センター(太田市西野谷町38-2)

主催 一般社団法人 太田新田歯科医師会

あなたの骨は元気ですか?

~骨粗鬆症と歯科治療の関係を考える~

 

 平成25年11月16日(土)午後2時より、太田市宝泉行政センターにおいて、「あなたの骨は元気ですか?~骨粗鬆症と歯科治療の関係を考える~」と題して、第14回市民公開講座が開催されました。

 すっきりと晴れ渡った穏やかな陽気の中、大勢の市民の皆様にご参加いただき、大盛況の講演会となりました。

 今回は、骨粗鬆症と歯科治療のさまざまな関係を、それぞれの視点から三名の先生方にご講演していただきました。

 鹿山整形外科医院 副院長 鹿山富生(かやま とみお)先生

 太田中央薬局     長谷川史朗(はせがわ しろう)先生

 群馬県立がんセンター   山根正之(やまね まさし)先生

 まず最初に整形外科の鹿山富生先生より、骨粗鬆症とは骨密度の低下によって骨折の危険性が高くなる骨格の病気という定義の説明から講演が始まりました。

骨粗鬆症による骨折が生じやすい部位として上腕骨近位部、椎骨、橈骨近位部、大腿骨近位部が挙げられ、特に大腿骨・背骨の骨折の場合、寝たきりとなり、床ずれ、肺炎、認知症等の合併症から要介護、要支援、死亡に至る可能性が生じる。骨折しなくても椎体圧迫骨折による脊柱の変形(姿勢の変形)により、体の痛みや日常生活の質の低下が起こる。

骨粗鬆症の原因は、閉経(女性ホルモンの低下)や加齢(筋肉量の低下、日光照射量の低下、腎臓機能の低下、カルシウム摂取不足、カルシトニン分泌低下)である。

骨粗鬆症になる病気は、糖尿病・リウマチ・肝臓病・腎臓病・甲状腺の病気や胃切除後、薬は、ステロイド、ワーファリン、生活習慣としては、アルコールやカフェイン多飲などがあげられる。

治療法は骨密度を上げることであり、カルシウムの摂取が必要である。しかし、カルシウムは吸収が悪く牛乳40%、小魚30%、野菜類20%程度。したがって、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、マグネシウム、ビタミンKが必要となる。また、カルシウムの吸収を妨げるものとしてはリン(P)、食塩がある。リン(P)とはインスタント食品や練り物などの防腐剤、酸化防止剤に多く含まれる。

 ひと昔前は、骨折のしやすさ=骨密度の低下でしたが、現在は骨折のしやすさ=骨密度の低下(7割)+骨質(3割)となっている。

 骨質を良くするものとしてビタミンB6・B12・C、葉酸が必要、また、日光に当たることで皮膚でのビタミンDが合成されるので、家に引きこもらないように注意!!

骨折しにくい住環境のポイントは、ぬ・か・つ・け に注意。

ぬ・ぬれているところは滑りやすい(風呂場など)

か・かいだん、段差があるところは、転びやすい。

つけ・片つけてない部屋では、つまずきやすい。

ぬ・か・つ・け に注意して骨粗鬆症を克服して健康で明るい毎日を送りましょう。

つづいて、太田中央薬局の長谷川史朗先生のご講演では、骨粗鬆症に使われる薬についてお話しされました。

骨粗鬆症治療薬として、カルシウム製剤(アスパラCA)、活性型ビタミンD3製剤(アルファロール・ワンアルファ・ロカルトール)、ビタミンK製剤(グラケー)、ビスホスホネート製剤(ボナロン・フォサマック・ベネット・アクトネル・リカルボン・ボノテオ)、エストロゲン製剤(ジュリナ)、SERM(エビスタ・ビビアント)等が使用される。

カルシウムとビタミンDについて、骨の主成分はカルシウムであり、ビタミンDはカルシウムが体に入るのを助ける作用がある。ただし、カルシウム量が多すぎると腎障害が起こるので同時に使用するときは注意が必要。カルシウム・ビタミンDが不足すると骨はもろくなる。ビタミンDは紫外線を浴びると皮膚で作られるので、全く日光に当たらない生活だと、ビタミンDが足りず骨が弱くなる可能性がある。

ビタミンKは、骨にカルシウムをくっつける役割があり、納豆や緑色の強い野菜などに多く含まれる。しかし、ビタミンKはワーファリンの効果を邪魔してしまう。

エストロゲン製剤とSERM(サーム)について、女性ホルモン(エストロゲン)の役割は、骨を丈夫に保つ、髪の毛を豊かにする、免疫を高める、乳腺を発達させる、悪玉コレステロールを減らす、肌のつやや柔軟性を保つ等の作用がある。薬としてのエストロゲンの問題点は、乳がんの危険性を高める。SERMとは、骨や脂質代謝についてはエストロゲンと同じように働き、骨を強くして悪玉コレステロールを減らす。乳腺や子宮についてはエストロゲンとは逆に働き、乳がんなどの危険性を高めない。

ビスフォスホネート製剤の用法・用量に関連する使用上の注意(飲み方)

1.      水以外の飲料(Ca、Mg等の含量の特に高いミネラルウォーターを含む)や食物あるいは他の薬剤と同時に服用すると、本剤の吸収を妨げることがあるので、起床後、最初の飲食前に服用し、かつ服用後少なくとも30分は水以外の飲食は避ける。

2.      食道炎や食道潰瘍が報告されているので、立位あるいは坐位で、十分量(約180ml)の水とともに服用し、服用後30分は横たわらない。

3.      就寝時又は起床前に服用しない。

4.      口腔咽頭刺激の可能性があるので噛まずに、なめずに服用する。

5.      食道疾患の症状(嚥下困難又は嚥下痛、胸骨後部の痛み、高度の持続する胸焼け等)があらわれた場合には主治医に連絡する。

服用にあたって注意が必要な人

1.      食道、胃、腸に問題がある人。

2.      血液中のカルシウムの量に異常がある人。

3.      服用時に体を30分以上立てていられない人。

4.      妊婦又はその可能性がある人。

5.      腎臓や肝臓に問題がある人。

6.      歯科治療を受ける予定、又は治療中の人。

アクトネルの場合、重大な副作用として、食道穿孔、食道狭窄、食道潰瘍、胃潰瘍、食道炎、十二指腸潰瘍等の上部消化管障害、肝機能障害、黄疸、顎骨壊死、顎骨骨髄炎、大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折が報告されている。また、顎骨壊死や顎骨骨髄炎の発症のリスク因子として、悪性腫瘍、化学療法、コルチコステロイド治療、放射線療法、口腔の不衛生、歯科処置の既往等が知られている。使用上の注意として、本剤の投与開始前は口腔内の管理状態を確認し、必要に応じて患者に対し、適切な歯科治療を受け、侵襲的な歯科処置をできる限り済ませておくよう指導すること。本剤投与中に侵襲的な歯科処置が必要となった場合には本剤の休薬等を考慮する。また、口腔内を清潔に保つこと、定期的な歯科検査を受けること、歯科受診時に本剤の使用を歯科医師に告知して侵襲的な歯科処置はできる限り避けることなどを患者に十分説明し、異常が認められた場合には、直ちに歯科・口腔外科を受診するよう指導すると示されている。

副作用防止や早期発見のために

1.      服用時の水をしっかりと摂り、その後横にならない。

2.      胃痛、胸やけ、食欲不振などがあれば医師に相談する。

3.      歯をきれいに保ち定期的に歯科に受診する。

4.      歯やあごの痛みがある場合は、医師にも相談する。

5.      お薬手帳を使う。

お薬手帳は健康維持のカギとなっているので、受診の際は必ず提示するようにしましょう。

最後に、群馬県立がんセンター 歯科口腔外科 部長の山根正之先生には、特に骨粗鬆症治療薬のビスフォスフォネート製剤についてご講演して頂きました。

骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折は2007年1年間に約16万人発生し、2030年には26万~30万人の発生が見込まれています。骨折後の患者さんの薬45%が自立困難、要介護となります。また、骨折後の死亡率は1年で10%強、2年で25%といわれています。そのために的確な骨折リスク評価と、確実で効率の良い骨折予防を行うことが大切です。

現在、骨粗鬆症の治療薬の中でビスフォスフォネート製剤は骨折予防のための最も有効な薬剤であり、その使用が推奨されています(自己判断で中止しないでください!)。これらの薬剤は骨粗鬆症の特効薬で重要な薬ですが、一方であごの骨壊死をおこすことが報告されています。あごの骨壊死の症状として、歯肉の痛み・腫れ・歯のぐらつき・抜歯後の治りが悪い・あごのしびれ・骨の露出・骨が腐る、などがあります。発生頻度は0.01~0.02%といわれており低い発生率ですが、歯槽膿漏(歯周炎)がひどい人や、歯の根の先に炎症がある人が抜歯などの外科処置を受けると骨壊死の可能性が高くなります。口の中には極めて多くの細菌が存在するため(糞便中の細菌に匹敵!)、あごの骨に限局した壊死が発生すると考えられています。

あごの骨壊死の予防で最も大切なことは、普段から口の中を清潔に保つことです。日々の歯ブラシ・うがいによる清掃、かかりつけ歯科医院での定期的な歯石除去・虫歯治療などが大切です。あごの骨壊死は一旦発生すると難治性で、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。口の中に痛み・腫れなどの症状がなくても、かかりつけ歯科医院で定期的に健診を受けるようにしましょう。

 講演後には質疑応答があり、参加者からの質問がありました。

・運動と食事について

 どんな運動が良いのか?

 痛みがあってもするのか?

という質問には、講演中にもお話しされていましたダイナミックフラミンゴ法という両手を広げて片足で立つ運動(片足ずつ1分間を一日3回<大腿骨の付け根に自分の体重の6倍がかかる>)を説明され、痛みがある方は治ってから無理せずに行うようにということでした。

食事については、なんでも好き嫌いせずに、楽しく、美味しく食べることが重要とおはなしされました。

・ビスフォスフォネート製剤服用患者の顎骨再建の治療法について

 どんな治療法があるのか?

という質問には、保存的治療法として、壊死部の切除(がん治療に準ずる)後にチタンプレートを埋入するという手術の説明がありました。

他にもいくつか質問がありましたが、盛況のうちに講演会が終了いたしました。

医師、薬剤師、歯科医師が、地域医療の連携を充実させ、市民の皆様の健やかな生活を願い、また、今後も市民公開講座を開催したいと思っております。ご参加して頂き有難うございました。

市民公開講座運営委員 増田康展

 

市民公開講座の開催案内

第16回市民公開講座 開催報告

日時:平成27年11月14日(土)午後2:00~午後4:00

場所:太田市学習文化センター(太田市飯塚町1549-2)

主催:一般社団法人 太田新田歯科医師会

口の中のがんの怖さ

~手術しますか?それとも予防しますか?~

小雨が降り続く寒い陽気ではありましたが、足元の悪い中多くの市民の方々にお集まりいただき

第16回市民公開講座が開催されました。

今回は、群馬大学大学院医学系研究科顎口腔科学分野教授の横尾 聡 先生を講師としてお招きし、口の中の「がん」をテーマに御講演して頂きました。

口の中にできるがん「口腔がん」は、舌がん、上顎歯肉がん、下顎歯肉がん、頬粘膜歯肉がん(頬の内側の粘膜のがん)、口底がん(下の歯肉と舌の間のがん)、硬口蓋がん(上顎の真ん中の硬いところのがん)の6カ所をいいます。

口腔がんは、直接見ることができるため初期症状を発見しやすいですが、認知度が低く進行するまで放置されやすい病気です。標準治療は手術療法しかないため患者さんにとっては非常に大きな負担がかかります。しかし、早期の段階で適切な治療を行えば、9割は完治が見込める病気です。

口腔がんの年間罹患者数は全国で7,000人程おり、がんの中では頻度は少ないですが、進行した口腔がんの手術においては、顔面が欠損するのでQOL(Quality Of Life)が低くなってしまいます。しかし、血管縫合の技術の進歩によって再建手術を行うことにより、社会的生命の回復が可能になりました。ただし、切除手術と再建手術は同時に行うので手術時間が10時間以上かかることは珍しくありません。

群馬県では、口腔がんを扱っているのが群馬大学だけであり、そのうちの9割を口腔外科、顎顔面外科が扱っています。2013年においては年間121人の患者数があり全国で1位となりました。また、横尾教授が赴任されてから7年が経過し、以来行った200例以上の手術は1例の失敗もないという事でした。

講演では、口腔がんの手術写真を動画で紹介しながら、がんが進行すると顎の骨を削ったり、鼻や顔の皮膚、首のリンパ腺なども切り取る必要があり、「口の中の物をちょっととればいいというものではなく、非常に怖いものだという事を身に付けてほしい」と話されました。

口腔がんは約70%が歯科医院で発見され、全体の約80%が口腔外科で診療されています。また、喫煙や飲酒は発生率を高めることがわかっています。

発がんの前兆をキャッチするために気をつけてほしい3つの口腔粘膜疾患があります。食べ物を口の中に入れた時にしみる口内炎や、板状や斑状に白くなる口腔白板症、主に頬粘膜に見られ白色にレース状になる口腔扁平苔癬です。口内炎の多くは、1,2週間で治りますが、長く続く場合は要注意です。がんは小さいと痛みを感じないことが多く、そのために発見されにくく放置されてしまう病気です。がんが小さい早期の段階なら30分程度の簡単な手術で済み、転移する前の初期の段階で発見する事が治療の負担を大きく減らすことになります。毎日1回は口の中をチェック。日頃から口の中の事に注意して頂くことが早期発見につながります。そのためには、「禁煙節酒」に努めること、口腔がん検診を受診すること、定期的に歯科医院で検診すること。と市民の皆様にわかりやすく、大きな手術にならないよう予防することの大切さを説明され、終演となりました。

 

文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会

委員長 増田康展

第16回 市民公開講座開催のご案内

口の中のがんの怖さ~手術しますか?それとも予防しますか?

胃がんや乳がんほど数は多くありませんが、口の中にもがんができます。舌がんや歯肉がんなどがそれで、これによって命を落としたり、生還しても口からものを食べるのに苦労する方もいらっしゃいます。

今回の公開講座では口の中のがんを取り上げます。「口の中のがんの怖さ~手術しますか?それとも予防しますか?」と題し、群馬大学大学院医学系研究科顎口腔科学分野教授・横尾聡先生を講師にお迎えし、最先端の治療から予防のために必要な事柄などをわかりやすく解説していただきます。

横尾先生は口腔がん治療のトップランナーとして県内はもとより、国内外でワールドワイドに活躍されており、有意義なお話が聴けることと思います。

命をも奪う口の中のがん。市民の皆様には正しい知識を持ってがんを予防し、明るく健康的な暮らしを送っていただきたいと思っております。この講演がその一助になれば幸いです。

第15回 市民公開講座開催のごあいさつ

第15回市民公開講座開催「むし歯で命を落とすことは無いだろう」誰もがそう考えるに違いありません。しかし、急速に高齢化が進む現代の日本では、糖尿病や高血圧などの基礎疾患を有する患者さんが増え、重篤な歯性感染症を引き起こすこともまれではありません。「たかがむし歯と思っていたら・・」などということにもなりかねません。

全身疾患を持っている患者さんの処置を安全に行うため、私たち太田新田歯科医師会は管内5つの歯科口腔外科を有する病院と緊密な連携をとっています。その中でも地域の基幹病院である太田記念病院の先生方にご協力を頂き「ほんとはこわいお口の病気」と題し、公開講座を開催することといたしました。

親知らずの周囲の炎症や放置してあったむし歯から感染し、重篤な症状の敗血症に至ることもあるそうです。

太田記念病院における救急外来の様子、また歯性感染症の実際とその治療などについて3人の専門家の皆様からわかりやすく解説していただきます。皆様のお口の健康、ひいては全身の健康づくりの一助になれば幸いです。

歯と口の健康フェア~歯っぴいライフで8020~

8月30日(日)イオンモール太田 2F イオンホール

AM10:00~PM5:00

太田新田歯科医師会では毎年「歯と口の健康フェア~歯っぴいライフで8020~」と題し、市民の方々への歯科情報の提供、口腔ケアに対する意識の向上を目指したイベントを開催しております。

例年6月の第一日曜日開催でしたが、今年は変則的に8月の最終日曜日開催となります。

歯、歯肉、その他口の中の疾患は全身の健康に大きく影響することから、小さなお子さんからご年配の方々まで元気で楽しく過ごせるように、様々な役に立つ情報がたくさんあります。

歯と口の健康フェア~歯っぴいライフで8020~

ご来場の皆様にはプレゼントも用意しておりますので、是非お越しください。

 

第17回市民公開講座 開催報告

太田市・太田新田歯科医師会

17回市民公開講座 開催報告

日時:平成28年11月12日(土)午後2:00~午後4:00

場所:太田市学習文化センター(太田市飯塚町1549-2)

主催:太田市・一般社団法人 太田新田歯科医師会

~いつまでも楽しく食べるために~

前日までの雨も止み、秋とは思えない程の暖かく素晴らしい晴天に恵まれ、 第17回市民公開講座が太田市学習文化センターにて開催されました。今年から太田市との共催となり、今後はより細やかなテーマに対応出来ると思っております。

今回は「摂食・嚥下障害とリハビリテーション」を題材に致しました。高齢者の健康寿命延伸こそが医療・介護のテーマであります。そこで国内の第一人者である馬場尊先生、足利赤十字病院リハビリテーション科の尾﨑研一郎先生をお招きし、その病態からリハビリテーションの実際までわかりやすく解説していただきました。

第17回市民公開講座1

第17回市民公開講座2

第17回市民公開講座3

第17回市民公開講座4

第17回市民公開講座5

先ずは、馬場尊先生の御講演から始めて頂きました。

~その1:咬んで飲むしくみを正しく知ろう~

食事をする事とは栄養をとる事+αであり、αとは、社会的行為(冠婚葬祭、会合、家族団らんなど)、充欲的行為・娯楽的行為(美味しいものを沢山食べて満足する)、運動性(運動機能を維持する)であります。いつまでも楽しく食べるためには、この+αが必要となります。

食べるという行為は、咬んで、飲む事であり、咬んでから飲んだり、咬みながら飲んだりしますが、ヒトの咽喉は設計ミスであり、ヒトは誤嚥する動物であるという事です。

(液体)嚥下のメカニズムは、咽喉は、安静時は気道、嚥下時は食物道となります。嚥下が始まると気道は素早く食物道に切り替わり、この間に食物は食道に送り込まれます。嚥下が終わると、咽喉に食物はなく食物道は気道に戻ります。この間約0.5秒です。咀嚼時、嚥下が起こる前には気道に食物があり、気道が食物道に切り替わっておりません。咀嚼によって嚥下が可能になった食物(食塊)を能動的に舌の後方(咽頭)へ送ります。私たちは飲む事(液体嚥下)と食べる事(咀嚼嚥下)の2つの嚥下様式を使い分けています。

○歳をとるとどうなるか?

加齢の影響その1 食欲が低下し食べにくくなる。エネルギー消費が減少、味覚・臭覚の低下、残存歯が減少し、筋肉が効率よく動かなくなり口腔の運動機能が低下する。

加齢の影響その2 咽頭の位置が2~3cm位置が下がり咽頭腔が大きくなる。嚥下運動の時間がかかる。口と咽喉の協調性が悪くなる等。

○どのように誤嚥を防ぐか?

誤嚥とは、食物や唾液などが声門を超えて気道に侵入する事であり、ごく少量の誤嚥(唾液)は健常人でも起こる。

誤嚥は、咽喉が気道の時に食物がある(嚥下開始の前や嚥下終了の後)時や、気道に隙間がある(嚥下の最中)に起こりやすい。最も誤嚥しやすいものは、液体と固形物の混合物(鍋物やスイカ)

である。健常者の10~20%、気道の防御機能が弱っている人は不顕性誤嚥(silent aspiration)という誤嚥してもむせない事がある。そして、誤嚥をすることにより肺炎のリスクが増える(誤嚥性肺炎)。

○誤嚥しないためには?

・顎を上げて食べない:顎を軽く引く事が良い。

・すすらない:熱いものを控える、スプーンを口腔内に入れる、口に物を入れる時に吸わない・呼吸しない。

・一口ずつ飲む:ゴクゴク飲まない。

・硬いものは控えるか、小さく切る。

・固形物と汁物を一緒に取り込まない(鍋物等)

・咬みながらしゃべらない、しゃべらさない。

・食物を小さくする(咬む回数を減らす)。

・キザミあんかけ食(咀嚼し終わった形態、丸呑みできる食物<カレー等>)にする。

◎高齢者は誤嚥する。

・咽喉の機能は低下するという事を自覚する。

・若い頃と同じように食べない。

・口腔内のメインテナンス(食後、寝る前の歯磨き・定期的な歯科検診)が必要。

◎呼吸機能を維持する。

・大声を出す、大声で笑う(カラオケ、スポーツ)

・ハフィング(お腹から息を吐き出す)

・のどの筋力トレーニング

(シャキア訓練<寝ながら肩甲骨を床から離さないように首だけを上げる>)

◎EAT10(イートテン・嚥下スクリーニングツール<ホームページ参照>)

以上の事を参考に、是非日々の生活をより良い食生活にして頂きたいとの事でした。

 

続いて、尾﨑研一郎先生の御講演を始めて頂きました。

~その2:口腔ケアと咀嚼「唾液で潤った口で咀嚼しましょう」~

現代人は食事の際、昔の人に比べ咀嚼回数が少ない事がわかります。

ある調査によると、弥生時代は一食の咀嚼回数3,990回・食事時間51分、鎌倉時代は2,654回・29分、20世紀初頭は1,420回・22分、現代は620回・11分という結果が得られました。調理の発達により食べ物が柔らかくなり、顎の筋肉や骨の成長・発育に影響を及ぼしています。特に発達期の子供は、食事の際のある程度の負荷が筋肉や骨にかかることにより発達していくが、柔らかい食事により発達しなくなり顎が小さくなっています。

では、硬い物を咬むことがよいことなのでしょうか?

高齢者に関して言えば、むしろ良くないことと言えます。高齢者の体(歯も)は衰えているからです。硬い物を咬むことにより歯がすり減ったり、折れたり、入れ歯が割れたり、顎の骨にも悪影響が起こります。そうならない為には、自分が無理せずに食べられるものを食べることが重要です。

上手に咬むためには、唾液も必要となります。

唾液の役割は、発音しやすくし、食べ物の味を際立たせ、口腔内の洗浄や抗菌作用、食べ物の消化を助ける作用などがあります。年を取ると唾液の量も減少します。唾液が少なくなると口腔乾燥症になり、口の中のいろいろなトラブルが発症します。

唾液が少なくなった(出にくくなった)方は、唾液腺のマッサージをして唾液が出やすくなるように改善する必要があります。

○唾液腺のマッサージ

・耳下腺への刺激(10回)

人差し指から小指までの4本の指を頬にあて、上の奥歯のあたりを後ろから前へ向かって回す。

・顎下腺への刺激(各5回ずつ)

親指を顎の内側のやわらかい部分にあて、耳の下から顎の下まで5カ所位を順番に押す。

・舌下腺への刺激(10回)

両手も親指をそろえ、顎の真下から手をつきあげるようにゆっくりグーっと押す。

口の中で食べ物を上手によく咬むことにより、唾液も多く出てきます。一口30回咬むと良いと言われています。しかし、咬み過ぎると飲み込みづらくなってしまう事がありますので、飲み込みやすい状態になった時に飲み込みましょう。

飲み込むときには、呼吸を整える必要があります。食事をする前にはリラックスして、姿勢を正しましょう。

いつまでも楽しく食べるためには、身体や口の周りのストレッチをすることが大切です。

○ゆったりとした姿勢で行います。

・手をお腹に置き、鼻から息を大きく吸い込み口をすぼめて大きくゆっくり吐く。

○深呼吸しながら首の運動

・首を左右に傾けたり、左右に動かしたり、大きく回したりする。

続いて、口のストレッチを行います。

○個人個人にあったペースでリズミカルに行いましょう。

・口を横に引く。唇を突き出す。頬を膨らます。息を吸い込む。アーっと声を出す。

 

このような比較的簡単なストッレチですので覚えて実践して下さい。そしてお口の中の環境を整え楽しくお食事をして頂くためにも、定期的な歯科検診が必要です。という事を付け加えて楽しい講演が終演となりました。

 

文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会

委員長 増田康展

第18回市民公開講座開催のご案内

第18回市民公開講座開催のご案内口腔ケアと一言でいっても、内容は多岐にわたっています。口腔清掃などの口腔衛生管理のための口腔ケアと、摂食嚥下リハビリテーションなどの口腔機能管理のための口腔ケアとがあります。

そこで、今回はお口の中を清潔に保ち、食べる・飲み込むなどの口腔機能の維持を目的とし、誤嚥性肺炎を予防して健康寿命を延ばすための口腔ケアを題材とした講座を開催します。

講師の鎌田政善先生は、平成27年3月まで奥羽大学歯学部の教授をされていて、定年退職後に太田市内で開業された先生です。

老年歯科医学会群馬支部の支部長をされていますので、高齢者を対象とした口腔ケアについての有意義なお話が聴けることと思います。

この講座で正しい知識を得て、健康で明るい生活を送って頂ければ幸いです。

画像をクリックしていただくとPDFファイルでご覧になれます。

第18回 市民公開講座 開催報告

太田市・太田新田歯科医師会

第18回 市民公開講座 開催報告

 

日時:平成29年11月11日(土)午後2:00~午後4:30

場所:太田市学習文化センター(太田市飯塚町1549‐2)

主催:太田市・一般社団法人 太田新田歯科医師会

「あなたの口腔ケアできていますか?

入れ歯のケアは・・・・」

 

木枯らしに吹かれておりましたが素晴らしい秋晴れの下、第18回市民公開講座が太田市学習文化センターで開催されました。昨年より太田市と共催となり2回目となる今回の市民公開講座は、落語家さんをお招きして、講演会と落語の2部構成となりました。

第1部の公開講座は、太田新田歯科医師会会員の とちはら歯科 院長 鎌田政善先生による口腔ケアを題材にお話しして頂きました。

とちはら歯科 院長

〇歯科の二大疾患

お口の中の主な病気はう蝕(むし歯)と歯周病(歯槽膿漏)であり、これらを如何に予防するかが重要です。その原因は歯垢(プラーク)!!

食物が歯と歯茎の周りに残ると口の中の細菌が付着し細菌叢を作ります。これをプラークといいます。口腔内には約500種類の細菌(常在菌は約千億)が存在し、ほとんどが無害ですが、口の中が不潔でバランスが変化すると病気を発症します。

う蝕(むし歯)、歯肉出血、排膿、腫脹、退縮、歯の動揺、口臭はプラークが原因であり、プラークを除去する事で歯肉は健康を回復しう蝕(むし歯)を予防できます。そのためには、正しい歯磨きを継続して行うことが重要です。歯ブラシ、電動歯ブラシ、タフトブラシや、歯間ブラシ、デンタルフロス等の補助的清掃器具を使用することにより、しっかりとプラークを除去することができます。また、口腔内の菌数が極めて多い場合は抗菌薬を使用し除菌するケースもあります。

〇口腔管理(ケア)は誰がやるの?

歯科医院で月に一回お口の中をお掃除してもらうだけでは、う蝕(むし歯)と歯周病予防にはなりません。お口の中の状態はひとによりさまざまです。その患者さんにあった、その患者さんによるホームケアが最も重要です!!

歯科医師による定期的な観察と歯科衛生士によるプロフェッショナルケア、そしてその患者さんにあった歯磨きの方法をチェック・指導してもらい、その患者さん自身が正しい歯磨きを継続してできるようにならなければなりません。

平成28年には “8020運動” が50%を達成しました。これは医療機関側だけで成し得たことではなく、患者さん自身が自分のお口の中を健康な状態に保つという意識の表れによるものです。

〇残存歯数と長寿

残存歯数が多い人は、少ない人に比べ生命予後が有意に高いという調査結果があります。また、欠損歯がある人で義歯を装着していない人は、義歯を装着している人に比べ1.52倍死亡率が高いという報告もあります。

義歯(入れ歯)は、自分の歯で食事をしていた時の力に比べ、どんなによくできた入れ歯でもその時の力の30%程度でしか噛めないものです。ですから、以前と同じように何でも好きなものを食べるのではなく、無理のないように上手に使って食事をしていただく事をお勧めします。

〇義歯(入れ歯)のお手入れが重要!!

義歯にもプラークは付着します。付着したプラークにより義歯性口内炎を引き起こします。特にカンジダ菌が原因です。そして口腔カンジダ症を発症することがあります。

口腔カンジダ症とは、主に口腔粘膜の白苔・発赤を主症状とするものですが、進行すると肺カンジダ症や腎カンジダ症などの内臓真菌症の起因となります。

義歯性口内炎や口腔カンジダ症を予防するためには、口腔内は洗口剤(リステリンやモンダミン)を使用する事が有効であり、義歯は義歯専用ブラシを使用し機械的に汚れを除去する。そして義歯洗浄剤を使用し科学的に洗浄・除菌し、きれいな状態を保つ事が必要となります。

〇現在我が国における死因

1位:がん(悪性新生物)

2位:心疾患(狭心症、心筋梗塞)

3位:肺炎(誤嚥性肺炎)

4位:脳血管障害(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)

3位の肺炎(誤嚥性肺炎)は、カンジダ菌が原因でもあります。年間に12万人、太田市民の約半数が肺炎(誤嚥性肺炎)によってお亡くなりになっています。

〇肺炎(誤嚥性肺炎)を予防するには?

専門的口腔ケア(口腔衛生、口腔機能)が重要となります。

1,器質的口腔ケア

口腔衛生を主体とした歯科口腔疾患の予防処置、感染予防(誤嚥性肺炎予防)などを目的とした口腔ケア。<口腔衛生、ブラッシング、口腔清拭>

2,機能的口腔ケア

口腔諸機能の回復を目的とした口腔ケアであり、摂食嚥下リハビリテーション・言語訓練などを応用した機能回復訓練。<筋ストレッチ、舌運動、口腔刺激法>

〇誤嚥性肺炎予防‼

・日常の手洗い、うがい(菌やウイルスの排除)

・就寝前の歯磨き、うがい(就寝中の唾液等が咽頭に流れ込んだ際に、異物や菌・ウイルスが入り込むことが軽減される。)《重要》

・咽頭マッサージ(開口や咽頭・口周辺のマッサージなど、嚥下機能を維持させる運動を行う事で嚥下を予防する。)《よく笑う、カラオケ、おしゃべり、笛を吹く等》

〇フレイル(虚弱):ヒトはどの側面に向かって弱っていくのか?

・「身体」の虚弱(フィジカルフレイル)
・「精神」の虚弱(メンタルフレイル)
・「社会性」の虚弱(ソーシャルフレイル)

特に口腔内に関して言えば、一生懸命咬もうという努力が必要です!!

咬めないから柔らかいものを食べる、そうすると咬む機能が低下して、口腔機能低下への悪循環となります。『食べる』ことにこだわる事が大事なことです‼

入れ歯の具合が悪ければ、入れ歯安定剤を使用して構いませんが、出来れば調整や義歯を新しくする事が望ましいでしょう。入れ歯安定剤の材料は劣化すると汚れが付きやすく細菌が繁殖しやすくなるので注意して使用して下さい。

〇健康寿命のための「3つの柱」

・栄養(食・口腔機能)

①食事(タンパク質、そしてバランス)
②歯科口腔の定期的な管理

・社会参加(就労、余暇活動、ボランティア活動)

①お友達と食事をする。
②前向きに社会参加をする。

・身体活動(運動、社会活動など)

①たっぷりと歩く!
②ちょっと頑張って筋トレをする!!

このような事を行う事により、より早期からのサルコペニア予防・フレイル予防になります。

〇高齢者の生きがい(楽しみ)

・美味しいものを食べること
・味わうこと
・おしゃべりすること

全てが口腔の生理機能であり、働き続ける意欲を起こす身体機能と自分の健康を維持するための大切な機能である。

〇身体の健康と心の健康

これらを維持するためには“口腔ケアが最も重要”であり、食事を楽しくとることで栄養状態を維持、人前で大きく口を開けて笑ったりしゃべったりすることが全身の健康につながります。

寝たきりにならないためには“食”が大切!

“食”(食べる)のためにはお口の健康が大切!!

健康長寿のためにお口の健康をしっかりと管理しましょう‼と、とても解わかりやすい、楽しい講演が終焉となりました。

第18回 市民公開講座

休憩をはさんで、第2部の落語が始まりました。

公益社団法人 落語芸術協会の橘ノ圓満さん、柳亭明楽さんにお話をして頂きました。

〇橘ノ圓満 (たちばなの えんまん)

階級:真打

得意ネタ:穴子でからぬけ、金明竹、試し酒、転失気、子ほめ、寿限無、時そば、ほうじの茶、豊竹屋

橘ノ圓満 (たちばなの えんまん)

〇柳亭 明楽(りゅうてい めいらく)

階級:二ツ目

柳亭 明楽(りゅうてい めいらく)

講演で少し疲れた後に、お二人の落語で会場の皆様も大いに笑っていただき、これもまた健康のために良いことであったことでしょう。

皆様の健康で健やかな生活の一助となれば幸いです。

文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会 増田康展