歯科は一生のつきあい

太田新田歯科医師会

公衆衛生委員会担当理事

大木歯科クリニック 院長 大木晴伸

 

むし歯、歯周病、入れ歯 等 今だ何か問題が起きてから歯科にかかる方がまだまだ多いようです。しかし問題が出る前の予防 さらに言えば歯が生える以前、母親のおなかにいる時から予防は必要であり、そこから歯科は患者さんに関わる必要があります。

たとえば、妊娠中に服用した薬が歯の形成を妨げることもあります。またタバコなども大いに影響があります。

また生まれたばかりの赤ちゃんはミルクで育ちますが、母乳と人工乳では大きな違いがあります。

それは 栄養や免疫の事もありますが、乳首の違いも大きいのです。人工乳を与える哺乳瓶の乳首は、くわえれば簡単にミルクが出てきますが、母乳の場合は赤ちゃんが一生懸命に吸わなければ出てきません。さらにただ吸うだけではなく、舌が乳首をしごくようにしなければならないのです。それにより子供の口の周りの筋肉が鍛えられ、顎の成長にも大きな影響があります。

また母乳であっても 乳糖といってむし歯の原因にもなります。よってだらだらと与えるのではなく、時間を決め授乳する。それにより空腹感を覚え、飲むときにしっかり飲む 飲んだら歯磨きを行い、それが生活習慣を整えることにもつながります。

子供が幼児期になると、なるべくこぼさないようにストローを親は使わせますが、ストローを使いすぎると口の周りの筋肉が収縮してばかりいて そのため歯列弓つまり顎が細くなりすぎてしまいます。

飲み物もたとえば100%果汁のジュースであっても 糖分や酸がむし歯に関わります。

このように歯が生える前から お乳の飲み方 母乳でも飲むタイミング、断乳の時期 離乳食 等歯科の係わりが 健全な成長に大きく影響します。

幼児期に歯が生え 小児期に乳歯から永久歯に生え変わり、青年期 成人期のむし歯予防 歯周病予防もその時々により、考え方 やり方も変わります。その時期しっかり歯および歯肉を守り、きちんと咬み 栄養を摂取することが、体全体の健康に大きく寄与します。たとえば糖尿病という病気がありますが、歯周病は糖尿病の合併症であると認定されています。糖尿病になると歯周病が進行しやすく かつ治りづらくなってしまいますが、最近の研究では 歯周病を治療することで、糖尿病も良くなるというケースも出て来ています。

口の健康保持がうまくいけば、老齢期に入れ歯を入れなくて済みます。入れ歯は咬みづらいということだけでなく、食事もおいしくなくなります。また、アルツハイマー病の原因物質と言われるアミロイドβは、咬合不調和つまりかみ合わせが悪いことにより、大量に増加し、反対にかみ合わせの改善により減少します。つまりきちんと咬めることがボケの防止に大きく役立つわけです。

このように一生歯科の係わりが必要で、歯はただ食べ物を噛み砕くというだけでなく、健康維持に重要な役割があります。歯や歯周病の治療は時間がかかり、一度歯科にかかると、しばらく通院しなくてはならない。何より 歯を削るときのあの「キーン」という音がたまらないという方はとても多いと思います。しかし風邪を引いた時は 自宅で安静にしていれば 自然に治ることもありますが、歯は自然治癒はありません。早期発見早期治療をすれば、あの「キーン」という音もあまり聞かずに済みます。是非定期健診を欠かさず、口の中やそれに伴い体全体の健康維持に努めて頂きたいと思います。

そして何より予防することが最も重要です。定期健診は早期発見早期治療には役立ちますが、健診をしていればむし歯にならないという訳ではありません。

むし歯治療は 代替え材料を詰め 歯の機能回復をしたに過ぎず 天然の歯牙に勝るものはありません。最新の考えでは、現代文明社会の食事においては3ヵ月ごとに口の中のメンテナンスをしなければ、むし歯の発現率は極端に高くなるとされております。残念ながら保険の治療には予防処置は認められておりませんが、長い目でみると 予防処置を自費で行っても、それを行わずむし歯を保険で治療するより 安くあがります。 何よりお金では買えない健康の維持を是非努めて下さい。