かむことと健康の関係

いのおか歯科医院
井野岡真史

食べ物はそのままでは飲み込めません。歯でかみ砕いてこまかくしてだ液とよく混ぜ合わせて飲み込みます。
目標は一口食べたら30回と言われますが、皆さんは何回くらいかんでいますか?
よくかむことで、様々な効果が得られると言われています。

その効果とは、

  1. 胃腸の負担軽減
    よくかんで細かくしてだ液と混ぜ合わせてのみこむことにより、消化しやすくなり胃腸の負担が軽くなります。
  2.  肥満予防
    ゆっくり時間をかけてよくかむことにより、満腹中枢が働いて、満腹感をおぼえやすくなって食べ過ぎを防ぎ、肥満予防にもつながります。
  3. 言葉の発音
    よくかんで口の周りの筋肉を使うため、発音がはっきりし、表情が豊かになります。
  4. 歯の病気を予防
    顎の骨が発育し、歯並びがよくなります。歯周病や虫歯予防にもつながり、体力向上にも役立ちます。
  5. 味覚・脳の発達
    よくかんで食べることにより、味覚が発達し、食べ物の味がよくわかり、さらに脳の血流増加し、脳を活性化させて、高齢者の認知症予防に役立ちます。

電動歯ブラシって、いいの?

太田新田歯科医師会
きむら歯科医院 木村博昭

来院される患者さんから、よく質問されます。
「正しく使えば、すごくいいものだと思います。」といつも答えています。
その理由をお話したいと思います。

歯磨きのポイントは、大きく2つあると思います。
1、汚れているところに歯ブラシの毛先があたっていること
2、その位置で毛先を細かく振動すること

さて、人間の手の動きには限界があり、2番目の「細かく振動すること」が不得意な感じがします。そこで、登場するのが「電動歯ブラシ」です。細かく振動する動きは、人間の手は機械には勝てません。

現在、電動歯ブラシは「音波式電動歯ブラシ」が主流です。1分間のブラシ振動数は、約3万ストロークです。人間の手の場合、1分間に約200ストロークが限界といわれておりますので、音波式電動歯ブラシは「150倍」効率がよいことになります。患者さんからの質問の答えである「正しく使えば、すごくいいものだと思います。」というのは、電動歯ブラシを使っているのですが、ポイントがずれた人が多いのではないでしょうか。その対策として、かかりつけの歯科医院で電動歯ブラシを用いた正しい磨き方を教えてもらうのがよいと思います。理想は、ご自分の手で正しく歯磨きができ、その上で電動歯ブラシに変えるのがよいかと思います。

何かと忙しい現代社会、歯磨きに長時間かけられないのが実状なのかもしれません。電動歯ブラシを正しく使い、「短時間で、効率よく、綺麗に」お口のお手入れをすることは、皆様の生活にプラスになることでしょう。

「食後30分は歯を磨いちゃダメなの?」

厚生広報委員会
もろ歯科医院 院長 毛呂慎(もろまこと)

ちょっと前にマスコミで話題になった事。
元ネタは1年ほど前、とあるアメリカの歯科団体が発表したもので、象牙質という歯の一部分の材料を使った実験。
・食後30分以内に歯を磨くとダメージがあって・20分以内だと更に深刻なダメージが加わる結果として食べ物に含まれている酸を歯のより深い部分により早く浸透させてしまう。
だから「食後30分は歯を磨いちゃダメ」…という内容。

今日のお話に際して2つだけ専門用語の説明をしなくてはいけません。

まず1つ目。『脱灰と再石灰化』
食べ物を食べると口中が酸性になって歯の表面のCaやPが溶け出す(=脱灰)
唾液の緩衝作用によって逆にCaやPが取り込まれる(=再石灰化)。これの繰り返しです。
池の水が寒くなると凍って、暖かくなると溶けるみたいなもの。
食後30分というのは脱灰した歯が再石灰化し始めるまでの時間を根拠としてます。
その前に歯を磨くと、再石灰化するのを阻害しちゃうよって事。
これだけを見れば、正しい事を言っているのですがむし歯にならないように歯を磨くということはもっと様々な多面性がある訳です。

続いて2つ目。『歯の構造』です
真ん中に空間があって神経が入っています。
冷たいものがしみるとか、むし歯が痛かったり、歯を削ると痛い…例のやつです。
その周りに今回実験に使われた「象牙質」があって更にその周りに「エナメル質」があります。
チョコレートでコーティングされた棒付きのバニラアイスをイメージすると分かりやすい。
棒…神経。バニラ…象牙質。チョコ…エナメル質

元々日本人の歯は欧米人と比べて象牙質が厚い。
相対的にエナメル質が薄い。これは半透明ですから健康な歯でもやや黄色味がかっているわけです。
欧米人はその関係が逆転しますから白く見えるんです。
エナメル質の硬さは生体で一番硬くモース硬度6~7です。
これは「ナイフで傷つけることができず、刃が痛む」というレベルです。
それだけ硬い組織ですから、そんなに簡単には削れません。
なので30分以内に歯を磨くと、歯が黄色くなるというのも根拠なし。

つまり、この実験のデータがそのまま日本人に当てはまる訳ではないしそもそも、むし歯に関係する最大の存在を忘れてます…そうです、むし歯菌です。
食後すぐに磨かないということは、その間に口中の細菌が酸を作る余計な時間を与えてしまう事にもなる。

きちんと歯磨きの習慣が確立している人は30分ズラしても良いかもしれませんが上手に磨けないお子さんや歯周病で口中に細菌がたくさんいる人は再石灰化する前のダメージを心配するよりも歯磨きを習慣付ける方がはるかに大切だと。

運動して汗をかいたら、少しでも早くシャワーを浴びてスッキリしたいですよね。
それと同じだと思いませんか?
是非とも安心して歯磨きに励んでみてください。

歯科は一生のつきあい

太田新田歯科医師会
公衆衛生委員会担当理事
大木歯科クリニック 院長
大木晴伸

むし歯、歯周病、入れ歯 等 今だ何か問題が起きてから歯科にかかる方がまだまだ多いようです。しかし問題が出る前の予防 さらに言えば歯が生える以前、母親のおなかにいる時から予防は必要であり、そこから歯科は患者さんに関わる必要があります。

たとえば、妊娠中に服用した薬が歯の形成を妨げることもあります。またタバコなども大いに影響があります。
また生まれたばかりの赤ちゃんはミルクで育ちますが、母乳と人工乳では大きな違いがあります。
それは 栄養や免疫の事もありますが、乳首の違いも大きいのです。人工乳を与える哺乳瓶の乳首はくわえれば簡単にミルクが出てきますが、母乳の場合は赤ちゃんが一生懸命に吸わなければ出てきません。さらにただ吸うだけではなく、舌が乳首をしごくようにしなければならないのです。それにより子供の口の周りの筋肉が鍛えられるのです。さらに顎の成長にも大きな影響があります。

また母乳であっても 乳糖といってむし歯の原因にもなりうります。よってだらだらと与えるのではなく、時間を決め授乳する。それにより空腹感を覚え、飲むときにしっかり飲む それが生活習慣を整えることにもつながります。

子供が幼児期になると、なるべくこぼさないようにストローを親は使わせますが、ストローを使いすぎると口の周りの筋肉が収縮してばかりいて そのため歯列弓つまり顎が細くなりすぎてしまいます。

飲み物もたとえば100%果汁のジュースであっても 糖分や酸がむし歯に関わります。

このように歯が生える前から お乳の飲み方 母乳でも飲むタイミング、断乳の時期 離乳食 等歯科の係わりが 健全な成長に大きく影響します。

幼児期に歯が生え 小児期に乳歯から永久歯に生え変わり、青年期 成人期のむし歯予防 歯周病予防もその時々により、考え方 やり方も変わります。その時期しっかり歯および歯肉を守り、きちんと咬み 栄養を摂取することが、体全体の健康に大きく寄与します。たとえば糖尿病という病気がありますが、歯周病は糖尿病の合併症であると認定されています。糖尿病になると歯周病が進行しやすく かつ治りづらくなってしまいますが、最近の研究では 歯周病を治療することで、糖尿病も良くなるというケースも出て来ています。

口の健康保持がうまくいけば、老齢期に入れ歯を入れなくて済みます。入れ歯は咬みづらいということだけでなく、食事もおいしくなくなります。また、アルツハイマー病の原因物質と言われるアミロイドβは、咬合不調和つまりかみ合わせが悪いことにより、大量に増加し、反対にかみ合わせの改善により減少します。つまりきちんと咬めることがボケの防止に大きく役立つわけです。

このように一生歯科の係わりが必要で、歯はただ食べ物を噛み砕くというだけでなく、健康維持に重要な役割があります。歯や歯周病の治療は時間がかかり、一度歯科にかかると、しばらく通院しなくてはならない。何より 歯を削るときのあの「キーン」という音がたまらないという方はとても多いと思います。しかし風邪を引いた時は 自宅で安静にしていれば 自然に治ることもありますが、歯は自然治癒はありません。早期発見早期治療をすれば、あの「キーン」という音もあまり聞かずに済みます。是非定期健診を欠かさず、口の中やそれに伴い体全体の健康維持に努めてください。

来月6月4日は「むし歯予防の日」で、それにちなみ太田新田歯科医師会では毎年6月第一日曜日に 「歯の健康フェア 歯っぴいライフで8020」というイベントを行っております。今年で19回目になりますが6月2日(日)にイオンモール太田さんの2階イオンホールにて午前10時より行う予定です。

・むし歯予防・歯周病予防・歯科矯正治療・おしゃぶり指しゃぶりなどをテーマにしたミニ市民公開講座や歯科相談 ブラッシング指導 顕微鏡を使って自分の口の中の細菌を見たり、口臭測定 肺年齢測定 骨密度測定など盛り沢山な企画となっておりますので、是非のぞいてみて下さい。来場者にはお土産も用意しています。

マタニティ歯科~正しい知識を持って歯科受診をしてください。~

 ○女性は妊娠すると、気持ちや体調の変化から歯科治療を受けたくても受けられなくなってしまう事が少なくないと思います。

○妊婦は、いつ歯科治療に受診すれば良いのか? 
歯科治療は、十分な配慮を行えば胎児への影響はないと考えられるが、母親が心配するのも事実である。よって不必要なリスクを避けるためにも、妊娠中期の安定期に歯科治療を行うのがよいでしょう。
 妊娠初期(~15W)と妊娠後期(28W~)は、応急処置に止めるのが望ましい

 ○妊娠による口腔内の変化
 妊娠期には、『つわり』『女性ホルモンの分泌増加』により歯科疾患のリスクが高まる時期です。
 つわりが発症し、(食事回数の増加)(嗜好品の変化)(唾液の分泌量の減少やねばねば感)により口腔内環境が悪化しやすくなる。
妊婦さんが自覚する口腔内の変化では、ブラッシング時の出血歯肉の腫脹
                               ↓         ↓
                        女性ホルモンが好きな歯周病菌がいるため

 ○妊娠すると、たばこやお酒は、胎児に悪影響だからよくないという事は、多くの人は知っています。
早産や低体重児出産のリスク 

               お酒を飲む   3倍

               たばこを吸う  7倍

               歯周病     7倍 

歯周病菌によって産生される物質(プロスタグランディンやサイトカイン)の存在で、これは、子宮収縮を促したりする物質でもあるので妊婦の体内を歯周病菌をめぐると分娩が促進されて早産を招く恐れがあります。
また胎盤に歯周病菌が感染すると胎児の発育が悪くなるため低体重児出産を招く恐れもある。

 キシリトールについて 

 妊娠期には、キシリトールガムやタブレットを積極的に摂取してもらいたい。
 唾液の分泌を促進、プラークの量や粘着性をブラッシングで清掃しやすく、感染しにくいミュータンスレンサ球菌に変化させていきます。1日3回~5回(食後が望ましい)5~10gを目安 継続摂取で2週間を過ぎた頃からプラークが減少し始め、3ケ月でミュータンスレンサ球菌が齲蝕原生の低いタイプに変化し、虫歯のリスクが減少する。

歯科の患者さんとしての妊婦さんは、X線の撮影服薬麻酔に関しての胎児への影響について不安を抱えていることが多い。

妊娠中の薬物投与 
 原則として治療上の有益性が危険性を上回ると判断されるとき最小限投与する。
 (~15週までは、投薬は出来るだけ避ける)
  抗菌薬) 第一選択薬 : ペニシリン系、セフェム系

  鎮痛剤)       : アセトアミノフェン

 局所麻酔薬 
 2%リドカインは、通常使用量であれば胎児への影響は少なくエピネフリンも通常使用量でほとんど問題がない。
※ シタネストオクタプレッシンの使用は避けるべき(フェリプレッシンに分娩促進作用があるため)

 X線の撮影 
 レントゲン撮影は、地球上で私達が浴びる1年間の自然放射線量を換算すると、
デンタルフィルムで150枚 パノラマで100枚の撮影に相当し、さらに鉛のエプロンを着せるることによって十分な防護を行っていることから、胎児に影響を及ぼさないで撮影が出来ると考えてよい。

 まとめ)

妊婦さんのお口の中のケアは、自分だけのものではなく、生まれてくるお子さんの口腔内環境にも大きく影響します。ご自身のお子さんが、生涯にわたって、虫歯がなくおいしく食事が出来るためにも妊婦さんの歯科受診をお勧めいたします。