第24回市民公開講座 開催報告
太田市・太田新田歯科医師会
第24回市民公開講座 開催報告
日時:令和5年11月19日(日) 午後2時~午後4時
会場:太田市宝泉行政センター 多目的ホール(太田市西野谷町38‐2)
主催:太田市・一般社団法人 太田新田歯科医師会
後援:太田市教育委員会・太田保健福祉事務所・太田市医師会
太田市薬剤師会・群馬県看護協会太田地区支部・太田栄養士会
太田歯科技工士会・群馬県歯科衛生士会東毛支部・群馬県歯科医師会
ご存知ですか?オーラルフレイル
~お口の機能を維持するために~
コロナウイルス感染症の影響も落ち着き、昨年に続き令和5年度 第24回市民公開講座が感染症対策に留意して開催されました。暖かな晴天に恵まれ、160名の市民の皆様にご参加いただきました。
今回は、オーラルフレイルについて、お口の健康管理が全身の健康に深く関わり、お口の機能を維持向上させることが健康寿命の延伸にどのように繋がるのかというお話しして頂きました。
演題:オーラルフレイルを考えてみましょう
講師:寺中 智 先生
(足利赤十字病院 リハビリテーション科 口腔治療室長)
世界では34%の人がお口の中の治療を受けていないというデータがあります。日本ではほとんどの人が歯科医院で治療を受け、今では高齢者治療先進国となっており、歯周病や虫歯だけの治療ではなく口腔機能が注目されてきています!!そして、かかりつけ歯科医院(定期受診している歯科医院)を持っている人は長生きするというデータもあります。歯科医院にかかっていれば何故長生きするのでしょう?
オーラルフレイルとは? オーラル(お口)のフレイル(衰え)
- オーラルフレイルの認知度(H28とR2の比較) 神奈川県歯科医師会調査
オーラルフレイルという言葉をご存知ですか?20歳以上の県内在住者の患者又は当該診療所が訪問診療を行った患者5,845人を対象に調査
H28:知らない82.5% 言葉は知っている10.8% 意味もわかる3.3% 不明3.3% 認知度14.1%
R2 :知らない67.2% 言葉は知っている19.9% 意味もわかる8.7% 不明8.7% 認知度約30%
日本歯科医師会では2025年までに認知度50%にする事を目標にしている
- フレイル(Frailty)には多面性がある。
・身体の虚弱 ― フィジカルフレイル
・社会性の虚弱 ― ソーシャルフレイル
・認知 心理 精神の虚弱 ― メンタルフレイル
フレイルとサルコペニア
サルコペニア ― 骨格筋量低下・筋力低下・身体機能低下
身体的フレイル ― 体重減少・易疲労感・身体活動低下・筋力低下・身体機能低下
この二つには筋力低下・身体機能低下の共通点があり、このことから食欲低下になり、さらに低栄養になり、そしてサルコペニアが進んでしまう。
- 口腔機能での「食べる」に注目!
・口から食事を摂ることが栄養摂取効率が良い
・味わうことで感性が豊かになる。
・色んな人と食べることで美味しさを共有できる
・しっかり咀嚼することで脳血流量の活性化
- 高齢者における食力
・栄養(栄養摂取・バランス、栄養状態)
・社会性 心理(こころ) 認知 経済(貧困)=介入しにくい
・身体(サルコペニア)
・多病(基礎疾患) 多剤併用=介入しやすい
・口腔‐嚥下機能(残歯、咀嚼、嚥下、口腔衛生、等)=介入しやすい
- 健康長寿のための3つの柱
『栄養』 食・口腔機能 ①食事(バランス)②口腔内の定期的管理(歯科受診)
『社会参加』 就労、余暇活動、ボランティア①お友達と食事②前向きに社会活動
『身体活動』 運動、社会活動など①ウォーキング②筋トレちょっと頑張る
『栄養』と『社会参加』に介入すれば『身体活動』は付いてくる。
サルコペニア(低四肢骨格筋量・低筋力・低身体機能)にならないためには、社会性(人とのつながり、生活の広がり、誰かと食事)を低下させないことが重要!! まさにコロナ渦!!
- フレイルと口腔機能が関連している ― フレイルドミノ
社会性の低下がきっかけとなり、運動量の低下→精神・心理の低下→口腔状態の低下→栄養機能の低下→身体機能の低下とドミノ式に低下していく。このフレイルドミノを止めるには予防が重要である。
オーラルフレイル →わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といった「老化による口腔機能低下を加速させている原因」を自分事にする概念 ⇒国民の啓発に用いる用語(キャッチフレーズ)
- オーラルフレイルの概念(2019年度版)
フレイルへの影響度
第1レベル 口の健康リテラシーの低下
・社会的フレイル・精神心理的フレイル・自発性の低下➡
・不十分な口腔健康への関心➡
・歯の喪失リスクの増加
ポピュレーションアプローチ
第2レベル 口のささいなトラブル
・滑舌低下・食べこぼし・噛めない食品の増加・むせ➡
・食品多様性の低下・食欲低下
地域保健事業、介護予防による対応
第3レベル 口の機能低下(口腔機能低下症)
・口腔不潔 乾燥・咬合力低下・口唇 舌の機能低下・咀嚼機能 嚥下機能低下➡
・低栄養・サルコペニア
地域歯科診療所で対応
第4レベル 食べる機能の障がい(摂食嚥下障害)
・咀嚼障害・摂食嚥下障害➡
・栄養障害・運動障害・要介護
専門知識を持つ医師・歯科医師による対応
- 口腔関連機関における機能低下への悪循環
歯が抜ける・歯が痛い➡かめない➡柔らかいものを食べる➡かむ機能の低下➡食欲の低下
➡サルコペニア
歯がないということは、噛めなくなり、食べられなくなる。しかし調理することによって食べやすくする事ができる!!
- 口腔の虚弱(オーラルフレイル)は身体的フレイルや死亡リスクとなる
対象者:高齢者2044人
評価項目(6項目中3項目以上の該当者をオーラルフレイル)
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- 祖役能力
- 口腔巧緻
- 舌運動の最大力
- 主観的咀嚼能力低下
- むせ
- 残存指数20歯未満
「オーラルフレイル」の人が抱えるリスク
身体的フレイル 2.4倍
サルコペニア 2.1倍
要介護認定 2.4倍◎
総死亡リスク 2.1倍◎
オーラルフレイルのセルフチェック 2023年版(案)
2つ以上の項目が該当→オーラルフレイルと定義
- 歯が少ない 残存指数で評価
- 咀嚼困難 半年前と比べて硬いものを食べるのが難しくなった
- 飲み込みにくい お茶や汁物等でむせることがある
- 口腔乾燥感 口が渇くことがよくある
- 滑舌低下 普段の会話で言葉で、言葉をはっきりと発音できないことがある
- オーラルフレイルの予防
口腔体操でオーラルフレイルを予防
【ブクブクうがい】と【ガラガラうがい】を意識して行う事によって複雑な口腔機能が鍛えられる
舌・口腔周囲の筋力負荷訓練
舌の筋力負荷訓練
スプーンを用いて舌の上から押し、その力に抵抗して舌でスプーンを押し返す
口唇の筋力負荷訓練
ストローを唇に挟んだまま引っ張り、その力に抵抗する
- 口腔機能低下症とオーラルフレイル
オーラルフレイルは、わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といった口腔機能が低下した状態を示すものであり、国民の啓発に用いる用語(キャッチフレーズ)である。
一方、口腔機能低下症は、検査結果に基づく疾患名である。従って、それぞれ区別されるものではなくどちらも重要な概念であり、国民へ口腔機能に関心を持つことの重要性を啓発し、その結果、歯科医院を受診して口腔機能低下症の検査を受けるということが一般的になることが望まれる。
- 歯科医院での検査
①口腔不潔(舌の汚れ)
舌苔付着度(TCI)
舌苔スコアの基準 舌を9分割し舌苔スコアを記録
スコア0 舌苔は認められない
スコア1 舌乳頭が認識可能な薄い舌苔
スコア2 舌乳頭が認識不可能な厚い舌苔
舌苔インデックス(TCI)=スコアの合計(0~18点)/18×100% 50%以上が評価基準
②口腔乾燥(口の乾燥) ①②〔口腔内環境の評価〕
1) 口腔水分計による計測 舌先端から10㎜の舌背部分を計測機(ムーカス)を使用し測定
27.0未満が測定基準
2) サクソンテストによる評価
・乾燥重量 2gのガーゼを用いる(タイプⅢ医療ガーゼ、7.5cm四方)
・乾燥したガーゼを2分間咬み、唾液をガーゼとともに一塊に回収、重量を測定し増加重量を唾液量とする。2g/2分以下が判定基準
③咬合力低下(噛む力)
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- 感圧フィルムによる咬合力の計測
デンタルプレスケールⅠ・バイトフォースアナライザ使用
プレスケール 200N未満・プレスケールⅡ 500N未満が判定基準 - 残存指数(残根と動揺度3の歯を除く)
20本未満(19本以下)が判定基準
- 感圧フィルムによる咬合力の計測
④舌口唇運動機能低下(舌の動き)
オーラルディアドコキネシス 5分間での合計発音数を計測し、1秒当たりの回数を算出
/pa/:口唇の運動機能 /ta/:舌前方の運動機能 /ka/:舌後方の運動機能
それぞれ1秒当たりの回数がいずれかで6回未満が判定基準
⑤低舌圧(舌の力) ③ ④⑤[個別的機能の評価]
JMS舌圧計(JMS)にて最大舌圧の計測(義歯使用者は、装着した状態で測定)
30㎪未満が基準値
⑥咀嚼機能低下(噛みつぶす力)
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- グミゼリーを用いたグルコース溶出量による咀嚼能率検査
グルコセンサー使用 100㎎/㎗未満が判定基準 - 咀嚼能率スコア法による評価
咀嚼能力測定グミゼリー使用 粉砕程度スコア2以下が判定基準
- グミゼリーを用いたグルコース溶出量による咀嚼能率検査
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⑦嚥下機能障害(飲む力) ⑥ ⑦〔総合的機能の評価〕
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- EAT-10 それぞれの問いを5段階で回答(0点:問題なし~ 4点:ひどく問題)
合計点数3点以上が判定基準 - 聖隷式嚥下質問紙 それぞれの問いをA,B,Cで回答
Aが1つ以上が判定基準
- EAT-10 それぞれの問いを5段階で回答(0点:問題なし~ 4点:ひどく問題)
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- 症例検討
入れ歯は使えているという入院患者さんでしたが、口腔内には上顎義歯のみ装着されており下顎は無歯顎。また、別の患者さんは壊れた入れ歯のままであった。義歯の修理や新製することによって咀嚼機能が改善され以前よりも上手く食事が可能となった。また、歯科医師や言語聴覚士による咀嚼や嚥下のトレーニングを行うことにより、口腔内環境が整い食事がしやすくなった。
- Take home message
・オーラルフレイルで国民的ムーブメント
・口の機能の限界を知りましょう
・かかりつけ歯科医院を持ちましょう
・セルフチェックをして歯科医院で管理
・年を重ねても「おいしく元気、ごはんがうまい!」
なにか口のことで些細なことがあったら歯科医院を受診しましょう。今日の講演が皆様の健康に寄与出来れば幸いです。と締めくくり第24回市民公開講座は終焉となりました。
―食べること、健康であること、美しくあること、全ては人々の幸せのために!―
文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会 増田康展