第19回 市民公開講座 開催報告
太田市・太田新田歯科医師会
第19回 市民公開講座 開催報告
日時:平成30年11月10日(土)午後2:00~午後4:00
会場:太田市学習文化センター 視聴覚ホール (太田市飯塚町1549‐2)
主催:太田市・一般社団法人 太田新田歯科医師会
後援:太田市教育委員会・太田保健福祉事務所・太田市医師会・太田市薬剤師会
群馬県看護協会太田地区支部・太田栄養士会・太田歯科技工士会
群馬県歯科衛生士会東毛支部・群馬県歯科医師会
太田市の歯科訪問診療
~ 歯科医がおうちにやってくる ~
前日までの雨も上がり、とても穏やかな秋晴れの下、第19回市民公開講座が太田市学習文化センターにて開催されました。今年も昨年同様、講演会と落語の2部構成で、第1部の公開講座は、太田新田歯科医師会会員の田中靖人先生と武政道代先生のお二人にご講演して頂きました。
第1部公開講座
当院における歯科訪問診療の現状
~患者さんに寄り添った歯科訪問診療
最後まで口から食べることを目標として~
医療法人社団 聖医会 田中歯科医院 院長 田中靖人 先生
かかりつけ歯科医院として、かかりつけの患者さんが通院出来なくなってからも最後まで診療を続けていきたい。入院しても、在宅療養になってからも、施設に入居しても。入れ歯やインプラントを含め、口の中の状態は、今まで治療を行っていた、かかりつけ歯科医が一番把握しているはずだから。
田中先生の思いをお伝えされてから、ご講演がはじまりました。
〇歯科訪問診療の依頼理由
◆高齢者の方からの依頼
① 様々な疾患、後遺症や高齢による廃用性症候群(フレイル、サルコペニア、ロコモ)による通院が困難なため。
- フレイル :健常から要介護へ移行する中間段階のこと。具体的には、加齢に伴う筋力の衰え、
疲れやすくなる等、年齢を重ねたことで生じた、衰え全般のこと。
- サルコペニア :加齢や疾患により、全身の筋肉量が減少すること。筋力低下により身体機能の低下が起こること。(杖を突いて歩く、手すりが必要になる、ふらつく等)
- ロコモ :ロコモティブシンドロームの略称。骨・筋肉・間接・神経等の障害のために移動機能の低下をきたした状態。
② 認知症により徘徊の危険性があり、単独で通院困難なため。
③ 高齢者の方のみの世帯で交通手段がなく、物理的に通院が困難なため。
◆ 難病の方や障害をお持ちの方で、通院が困難な方
◆ 歯科医師のいない、歯科の診療科目がない病院、精神病棟等に入院中で外出できない方
◆ ひきこもりにより、自宅から出られない方
- 必ずしも、誰でも、いつでも、どこでも、歯科訪問診療の対象者になるわけではありません。歯科訪問診療を受診するためには、継続的に通院出来ない客観的な理由が必要です。
〇歯科訪問診療を依頼してくれる方
◆ ご本人、ご家族
◆ 介護支援専門員(ケアマネージャー)
◆ 施設の施設長、看護師、介護士
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、高齢者専用賃貸住宅、デイサービス等
- 社会福祉協議会、地域包括支援センター、市役所、民生委員の方
- 訪問診療を行っている医師、看護師
- 歯科医師会、歯科訪問診療を行っていない歯科医院など
- 本人の歯科訪問診療の受診希望があれば、本人、家族、近親者関係者、誰でも依頼可能です。
歯科訪問診療の症例を、スライドを用いて説明
症例①:73歳女性、歯牙破折による疼痛、欠損による咬合困難を主訴とし、精神疾患と高齢による廃用性症候群により、車いすのため独歩通院困難であり、高齢者専用賃貸住宅の施設長より依頼。
保存不可能な残根を抜歯、ブリッジ作製後、口腔ケアにより状態の維持を図る治療計画。
症例②:80歳男性、義歯人工歯脱落。認知症による徘徊の恐れがあるため通院困難。食事介助中、介護士が発見し依頼。義歯修理にて継続使用とする治療計画。
症例③:95歳女性、義歯不適合による疼痛。大腸がんの全身転移、高齢による廃用性症候群により
車いすのため通院困難であり、群馬県立がんセンターの担当医より紹介依頼。慢性下顎骨骨髄炎による腐骨形成。がんセンター担当医と相談し、義歯調整、投薬によりQOL(クオリティーオブライフ)の維持を図る治療計画。
症例④:88歳男性、持続性の顎の痛み、口臭と味覚異常。末期がん(前立腺がん)、廃用性症候群により寝たきりのため通院困難であり、高齢者専用賃貸住宅の施設看護師からの依頼。太田記念病院歯科口腔外科に感染部除去手術を依頼し、手術後の経過観察、術後管理、その他必要に応じた処置を行い、QOL (クオリティーオブライフ)の維持を図る治療計画。
まとめ
歯科訪問診療でも通常の歯科外来診療とほぼ同じ治療を行う事が可能です。しかし、全身的な状態
により外来診療と全く同じ診療内容とはいかないことが多くあります。患者さんや、そのご家族の希望と実際に行える治療内容に隔たりがある場合も少なくありません。全身的な状況により、治療内容にかなりの差が出てしまう事が現実です。お口の中で気になる事がございましたら、先ずは早めに、周りの方にご相談してみてください。
歯科訪問診療では、特に局所麻酔を行う場合は、治療が難しいことが多くあります。口の中の『終活』ではないですが、少しでも元気なうちに、現在のかかりつけの歯科医院にて外来診療を受診して、しっかりとした歯科治療を受けていることが望ましいと思います。寝たきりになってしまったり、通院困難になる前に、常により良い歯の状態、口の中の状態にしておくことが一番大切であるとお話しされ、ご講演を終わられました。
「歯科訪問診療の実際」
~歯科訪問診療をより深く知って頂くために~
あおい歯科 院長 武政道代 先生
口には、話すこと、食べること、息をすること、そのような大切な機能があります。その大切な口のトラブルを減らすこと、口の機能を維持すること、疾病により障害が残ってしまった場合に、その障害と上手に付き合うことで療養生活が楽になる可能性があります。
歯科訪問診療には、そのような生活支援の側面もあります。治療だけでなく、生活支援としての歯科訪問診療の内容についてもお話しさせて頂きたいとご挨拶されご講演頂きました。
〇口腔・咽頭ケアによる吸引回数の減少
施設に入院されている患者さんが、痰の吸引を嫌がると看護師さんから相談を受け、歯科訪問診療に使用する専用の清掃器具を用いて、口腔・咽頭ケアを行うことにより吸引回数の減少が認められました。
困難だった処置や治療が、ちょっとしたきっかけでスムーズに行えるようになった一つの症例をお話しされました。
〇歯科訪問診療の訪問先の割合(あおい歯科調べ)
施設:51%、居宅:27%、病院22%
〇歯科訪問診療の原則
1人で通院が出来ない方
介護認定を受けている・難病や病気のため福祉医療を受給している・怪我や病気で入院・療養中
〇年齢(あおい歯科調べ)
20代から90代まで訪問診療を行っており、最も多いのは80代、続いて70代、60代、90代と徐々に減少、その他年齢が若くなるほど減少傾向にある。
〇費用:訪問診療料
1割負担 訪問診療料 1040円 + 歯科治療費、指導料 など
〇依頼内容(あおい歯科調べ)
義歯に関する依頼(不適合、修理、新製など)が最も多く、次に口腔内の疼痛、歯の動揺、歯の破折、口腔ケア、歯の脱落、歯肉腫脹・出血 など
〇歯科訪問診療の患者さんの基礎疾患(あおい歯科調べ)
・脳疾患(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)
・心疾患(心不全、心筋梗塞、心室細動など)
・パーキンソン病、パーキンソン症候群
・骨折(腰椎、大腿骨)・膝関節・腰椎変形症
・肺疾患・腎疾患・難病・がん・怪我
・認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、血管性など)
2014年厚生労働省患者調査では、高血圧症に続き認知症の患者さんが第2位!!
認知症:462万人、軽度認知障害:400万人、認知機能障害のない高齢者:2217万人
〇あおい歯科では、歯科訪問診療の際、認知症状があっても可能かどうか相談されることが多くあります。意思の疎通が出来ない、口を開けていられない、座っていられない、日によって体調や機嫌に変化がある等、ご家族の方は様々なことが心配ですが、その日、その時の状況により、診療内容も合わせて対応しております。認知症は進行性の病気で、緩やかに進行していきます。進行性の病変は回復できませんが、使わずに衰えた機能は回復させることができます。
施設・自宅での療養生活において、食事・歯磨き・着替え・入浴などに介助が必要となります。歯の痛みや、入れ歯の修理や調整だけでなく、食事が上手くできなかったり、むせたり、肺炎を繰り返していたりと、どうしたらよいかわからない時には、歯科訪問診療にてご相談下さい。食を支え、生活を支え、治療へと導くためにも、歯科訪問診療をご利用頂きたいと市民の皆様にお伝えしてご講演が終焉となりました。
落語・講演
少し休憩を挟んで、一般社団法人 落語協会 金原亭世之介(キンゲンテイヨノスケ)さんの落語(演題
:かんにんぶくろ)が始まると、会場は大きな笑い声でにぎわい、第1部公開講座で少し疲れた頭がスッキリとして、リラックスした笑顔を取り戻したようでした。
金原亭世之介さんは、現代感覚を生かした本格古典派の落語家であり、大正大学 表現文化学科
客員教授・俳人・ミュージシャン・執筆・講演・舞台・新作落語もこなすマルチタレントであります。
落語に続き、言語誘導学についてご講演して頂きました。会場から有志として薬剤師会の照井先生にご協力いただき、動体誘導を体験して頂きました。
世之介教授はステージに上がった照井先生の身体を前屈させると、無言で前屈した時よりも、褒めたり、大きな声で挨拶した後で前屈した時の方が+5cmも前屈出来ました!! 挨拶しなかったり、マイナス思考のストレスを加えた後に前屈をしてもらうと、元に戻ってしまいました。外部誘導の効果とのことで、他にも О(オー)リングの心理的要因についてもお話しして頂きました。会場内は隣同士、指でつくった輪を引っ張り合う笑顔の絶えない光景のまま、第2部 落語・講演が終了いたしました。
来年は、記念すべき第20回目の市民公開講座となります。今年同様、市民の皆様が笑顔で会場を後にして頂けるような公開講座を開催し、歯と口と全身の健康を維持し、支える事が出来れば幸いです。
文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会 増田康展