歯科健診について

一般社団法人太田新田歯科医師会

もろ歯科医院

院長 毛呂 慎

 

歯科健診について

 

学生の頃、春先になると歯科健診があって、その結果に一喜一憂したものです。「むし歯があります。歯科医院に行って治療を受けてください」なんて書かれていたらもう目の前が真っ暗になります。待合室で待っていると歯を削るキーンっていう音、子供の泣き声、歯医者独特の匂いなど…できることなら近寄りたくない場所への有り難くない切符。

そもそも自分たちでむし歯を見つけておいて、さぁ歯医者で治しましょう?…「それってズルくない?訳わからんわ」となりますよね。

そこで今日は誤解されがちな歯科健診の本当の意義をお話しします。「けんしん」には健診と検診があります。前者は健康かどうか、病気になりそうかどうかのチェック。後者はある特定の病気になっているかどうかのチェック…です。当然歯科健診は前者です。

歯科の二大疾病はむし歯と歯周病です。どちらも基本的には自然治癒が見込めず、良くて現状維持、基本的には少しずつ悪化する流れになります。それだけに早期発見・早期治療が推奨されてきた訳です。もちろんその前段階である予防が一番重要なのは当然ですけど…。

むし歯はフッ素の普及や口腔への関心が増したこともあって昔と比べれば少なくなってきています。ところが歯周病については24歳から65歳では未だに国民のほぼ半数近くが罹患していて『国民病』と言われているほどです。

実は歯科健診は母子保健法と学校保健安全法という法律で定められているのですが、その実施が義務とされているのは高校生までなんです。つまり大学生や就職して社会人になると、自分から積極的に受けようとしない限り健診を受けるチャンスは無くなってしまう訳です。

働き盛りと言われている世代の口腔健康管理が手薄になっているのが現状です(…75歳以上になると『高齢者の医療の確保に関する法律』で歯科健診が実施されるようになります)。実感としてお分かりかもしれませんが、むし歯は20代までの若者に多く見られ、歯周病は30代以降に増加します。つまり現実的には学校歯科健診では直接歯周病を拾い上げることはごく稀です。でも歯肉炎を早めにチェックすることで将来歯周病になるリスクを減らせる訳です。

歯科健診はスクリーニング検査と言われていて、無症状の人を対象に検査を行い特定の疾患の発症患者や発症リスクを有する人を篩(ふるい)にかけるものです。確かに健診は歯科医院の診療室と比べて照明や器材などの点でハンデがあります。そこで近年では歯科医師もヘッドライトを装着したり、健診時の体位を工夫するようにしています。

それでも「むし歯はありません」と言われても、運悪くそのフィルターから漏れてしまう場合もあります。不謹慎かもしれませんが「問題があるのにチェックに引っかからなかったのと、チェックに引っかかったけど問題がなかった」場合、健診を受ける人がダメージを受けるのは前者なんです。

だから、歯科健診とは将来のむし歯や歯周病のリスクを減らすために、仮に問題がないと言われても若いうちから歯科医院で定期的にチェックを受ける習慣を持ってもらう一つのきっかけになればいいなと考えています。