第23回市民公開講座 開催報告

日時 : 2022年11月13日(日) 午後2:00~午後4:20

会場 : 太田市学習文化センター 視聴覚ホール(太田市飯塚町 1549‐2)

主催 : 太田市・一般社団法人 太田新田歯科医師会

後援 : 太田市教育委員会・太田保健福祉事務所・太田市医師会

太田市薬剤師会・群馬県看護協会太田地区支部・太田栄養士会

太田歯科技工士会・群馬県歯科衛生士会東毛支部・群馬県歯科医師会

~医科歯科連携~

「そのいびき、息が止まっていませんか?

睡眠時無呼吸症候群かも??」

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、多くの行事が開催中止を余儀なくされておりましたが、3年ぶりに市民公開講座を開催する事となりました。開催に際しましては、検温、手指のアルコール消毒、会場内の換気、マスクの着用、人数制限や座席の配置など十分な感染予防対策を施し、第23回市民公開講座が開演されました。今回は、“いびき ・ 睡眠時無呼吸症候群”について、医科と歯科のそれぞれの分野から医科歯科の連携を踏まえてお話しして頂きました。

講演Ⅰ

演題:「そのいびき、大丈夫?~人生が変わる無呼吸治療~」
講師 :秀クリニック 院長 坂本 泰秀 先生

秀クリニック 院長 坂本 泰秀 先生

1,睡眠時無呼吸って何?

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnena Syndrome):サス

睡眠中に断続的に無呼吸を繰り返し、その結果、日中傾眠など種々の症状を呈する疾患の総称。

一晩(7時間)の睡眠中に30回以上の無呼吸(10秒以上の呼吸気流の停止)があり、そのいくつかは(ぐっすり眠っている)non‐REM睡眠期にも出現するものをSASと定義し、診断基準として、1時間当たりの無呼吸回数(Apnea Index : AI)が5回以上のものとした。

AHIとは無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index)の略で、1時間に5‐15回を軽度、15‐30回を中等度、30回以上を重度のSASと診断します。

睡眠時無呼吸(SAS)の原因は上気道の閉塞により低呼吸・無呼吸が起こり、慢性的な低酸素により諸症状・諸問題がおこります。

〈閉塞の原因〉

  • 形態的異常 : 肥満によって気道に脂肪が沈着する、扁桃腺肥大、アデノイド、巨舌、鼻中隔湾曲、小顎症
  • 機能的異常 : 気道を構成する筋肉の保持力低下➝舌根沈下など

睡眠時無呼吸の病態とは、睡眠➡無呼吸・低呼吸の発生➡血中酸素濃度の低下、血中CO2の上昇、胸腔内圧の低下➡呼吸の再開➡睡眠のサイクルを1晩中、何百回も繰り返す!!

〇SASの主な症状は、日中の眠気、いびき、夜間頻尿、熟睡感がない、起床時頭重感、肥満など。

〇SAS患者さんの主な特徴

身体的特徴 ・肥満・顎が小さい・扁桃肥大
合併しやすい疾患 ・高血圧・心疾患・糖尿病・不整脈などがある。

〇SASと交通事故との関係

追突事故の15%~33%は居眠り運転が原因とされており、1987年にSAS患者で交通事故を起こす頻度が高いことが報告されて以来、健常者に比べ2,5倍増加することが明らかになっています。

〇SAS患者は太っている人だけ?

SAS患者は確かに肥満度が高いが(平均BMI : 26,1)、38%は非肥満、5%は痩せている!

肥満だけがSASの原因ではなく、軟らかい食べ物が好まれる傾向により咀嚼回数が減り顎の未発達がSASリスクを増大させていて、矯正治療をしているお子さんが増加傾向である。

〇ステージⅢの乳がんより未治療のSASの方が生存率が低い⁉

未治療のSAS患者246名を対象とした8年間の追跡研究によれば、中等症以上のSAS患者の生存率は63%!国内における2019年のがん統計ではステージⅢの乳癌の5年生存率は79%!!決して軽く考えてよい病気ではなく、SASは放置したら大変です!!

 

2,クリニックでの実際の診察~初診から診断、治療について~

まず SASの問診票に受診された直接の理由・症状等を記載。いびきや睡眠の状態把握に関する質問を行う。理由は主にパートナーからの無呼吸の指摘・いびきの苦情。日中の眠気、居眠りによる交通事故や事故未遂。運送業の方の来院も増加。

続いて診察

問診票情報の確認、飲酒の状況、口腔内診察し、SASの説明や症状の確認。そして自宅でSAS簡易検査をしてもらいます。費用は3割負担で3,000円位、鼻の気流/いびき と動脈血酸素飽和度(SpO2)から睡眠中の呼吸状態を確認。自宅での簡易検査の結果をもとに再診、明らかに正常~ごく軽症であれば終診、いびきを気にされている場合は、チンストラップの装着やマウスピース作成の為に歯科へ紹介。

SASを疑う方には精密検査(PSG検査)となり、夕方からの1泊2日の夜だけ入院の検査となります。脳波検査を含み、睡眠深度や呼吸状態、心電図や足のピクツキなど10種類ほどの生理機能を確認する検査で、費用は3割負担で3~5万円前後と高額です。明らかに重症の方は即CPAP治療となります!!

CPAP療法の原理

CPAP治療は閉塞した上気道に陽圧をかけ、気道を開存させます。閉塞型睡眠時無呼吸症候群は軟口蓋や舌根の沈下により気道が閉塞し、無呼吸が発生する。CPAPは鼻マスクを介して、陽圧の空気を送り込み、上気道を広げ上気道の開存を補助する治療となります。

 

3,そのいびき、大丈夫?~人生が変わる無呼吸治療~

治療が必要なSAS患者は2019年の報告によると日本国内で940万人以上と推測されていますが、CPAP治療をしている患者は2021年現在65万人。運送業を中心とした簡易検査によるスクリーニング(SAS検診)も近年普及しつつあるが、潜在患者が圧倒的多数存在します。

SAS患者は日中の過剰な眠気といった症状や生活の質の低下だけでなく高血圧・不整脈・虚血性心疾患・脳血管障害・突然死といった生命予後に大きくかかわる疾患やうつ病などと密接に関連し、交通事故など大きな社旗問題に発展する危険もあります。そのためには、SASも早期に積極的に治療をすべきで、きちんと受診し検査を受けることが重要ですが、日常生活で気をつけると良い事もいくつかあります。

最も「安い」治療法は「ダイエット」、だけど…

SAS患者の7割は肥満。痩せさえすれば一定割合改善します。治療すべきレベルのSAS患者はCPAPやマウスピース治療を並行すべきですが、肥満傾向の方は、ベースラインの改善の為にダイエットを!!

日常でできる予防法  ベロ体操・その他

〇舌・口輪筋の『筋トレ・筋活!』舌を思いっきり前に出して15秒!

あいうべ体操:口呼吸から鼻呼吸に転換するのに有効。お風呂でおすすめ。「あー」口を大きく開く。

「いー」口を大きく横に開く。「うー」口を強く前に突き出す。「べー」舌を突き出し下に伸ばす。

ベロ回し体操:できるだけ大げさにやりましょう!寝る前にどうでしょう。舌を大きく前に出す(5回)。唇を閉じて舌で歯ぐきをグルっとなめる(右回り5回、左回り5回)。舌で左右の頬を強く押す(左右5回ずつ)

〇横向き寝:あおむけに寝ると重力に影響で舌が落ち込み気道が狭くなるので、横向きで寝る。

〇禁煙:喫煙はのどの粘膜の炎症やむくみ、低酸素の原因。

〇鼻炎治療:鼻が詰まると鼻からの気流が減少し、のどを広げる圧力が弱まります。鼻の通りをよくすることも大切です。

〇飲酒量を控える:アルコールには筋肉を弛緩させる作用があり、舌やあごの筋肉が緩んで気道を圧迫しやすくなります。

実際にCPAP治療をした患者さんの感想は、最初の一週間くらいは効果の実感がなかったようですが、2,3週間すると装置の装着にも慣れ、日中の眠気や起床時のだるさはほとんど感じなくなり、CPAP治療の有効性を実感したとの事でした。

講演Ⅱ

演題:「睡眠時無呼吸症候群 歯科(マウスピース)での治療」
講師 :  井田歯科クリニック 副院長 井田 順子 先生

井田歯科クリニック 副院長 井田 順子 先生

皆さんは良く眠れていますか?最近は、睡眠がブームですね。枕、サプリメント、乳酸菌飲料、スマートフォンのアプリケーションなどなど、熟睡せんがための様々な物が次々と出てきております。お使いになられている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

それらをお使いになられて、よく眠れましたでしょうか?

家族からのいびきの苦情はなくなりましたでしょうか?

睡眠の質と量、良く眠れることは、健康維持に重要です。睡眠時無呼吸症候群など、睡眠の病気は全身に関わる病気の原因になります。

 

〇睡眠時無呼吸の治療の担当科

精神神経科・呼吸器内科・神経内科・耳鼻咽喉科・代謝内科・泌尿器科・循環器内科・外科・小児科・歯科など多くの科で担当しており、歯科も担当科のひとつとなっております。

〇歯科、医科における睡眠時無呼吸の治療

医科では、nCPAP治療・耳鼻咽喉科的手術・投薬などの治療方法があります。

歯科では、OA(Oral Appliance) : 口腔内装置・マウスピース治療や口腔外科的手術があります。

また、睡眠衛生指導や睡眠体位の指導は医科歯科それぞれで行う事があります。

〇睡眠時無呼吸の治療における医療連携

  • 医科での睡眠時無呼吸の診断(睡眠検査)➝歯科へ打診
  • 歯科的診断(問診、視診、内視鏡検査、X線検査)➝OA治療が可能
  • 治療(OA治療)➝医科へ評価を依頼
  • OA装着時の睡眠評価(睡眠検査)➝治療ゴール
  • 管理(睡眠時無呼吸・OA・口腔の管理)➝必要に応じて
  • 再診断・再評価

〇睡眠時無呼吸になりやすいタイプ

肥満型  :①顎下軟組織の過多 ②首が太い

小下顎型  :①小下顎 ②首が長い

下顎歯列の狭窄:歯列の狭窄によって舌が後方移動し、咽頭が狭窄して睡眠時無呼吸が引き起こされやすい。

口蓋扁桃肥大:Ⅱ度(Tonsillar grade)の口蓋扁桃肥大がある。

〇OA(口腔内装置)の種類

・下顎前方移動型と舌前方牽引型がありますが、舌前方牽引型は使用が困難であることから現在はあまり使用されておりません。

下顎前方移動型は、更に一体型と分離型があり、一体型はハードタイプとソフトタイプがあります。分離型は調整機能がある物とない物があります。

〇睡眠時無呼吸になりやすい形態的特徴

  • 鼻閉
  • 肥満による顎下軟組織の肥大
  • 小下顎
  • 扁桃肥大
  • 舌骨低位
  • 頭部前屈

〇OA治療のメカニズム

OA(マウスピース・スリープスプリント)を装着することにより、下顎を前方に移動させ気道を開存し睡眠時無呼吸を改善する治療法です。

〇OA治療の症例報告

  • 昼間の眠気の訴え

睡眠時無呼吸症候群の診断・OA製作依頼、AHI;32.5回/時間・SpO2低下

OA装着によりAHI;15回/時間・SpO2低下の改善し昼間の眠気が改善された。

  • OSASの診断で16年前に大阪の耳鼻科で手術、心疾患あり。3年ほどで症状悪化。

群馬の病院で検査、AHI;78回/時 重症でCPAPの適応だが、OA装着によりAHI;4.8回/時 酸素低下なし。

  • 12歳小学生 うつ病で薬を服用・不登校

母親が、夜間のいびきが酷いと、呼吸器内科を受診 AHI;10.3回/時、低呼吸が主体。内服薬の影響?OA装着 AHI;6,6回/時 うつ症状の改善・薬は不要 学校への登校

  • 初診時中学生 平成20年12月 部活中に意識不明に救急車で搬送、CT・MRI・脳波検査するも診断つかず。平成21年1月から3月まで月に2.3度意識喪失になる。平成21年4月学校に行けなくなる。5月脳神経外科受診するも異常なし。普段の生活の問診から、中学1年から夜更かし・睡眠時間少ない。平成21年5月 当院受診 午前中起きられない、昼夜逆転。東京の睡眠クリニックに対診、『睡眠相後退症候群』の診断で時間生物学的治療。内服薬と生活時間の見直し。約1ヶ月で改善 学校への登校。
  • AHI;15,1回/時・いびき指数28,9/時 軽度から中等度のOSASの診断

2年前にOA装着するも改善なし 当院にてOA作成。AHI;12,9回/時・いびき指数20,2/時にやや改善。令和3年7月再来され、新たにOA作成。AHI;9,4回/時・いびき指数6,4/時に改善

しかしながら、患者さんの眠気の改善なし。通勤時、運転時の強い眠気。CPAPとOAと併用・口テープ使用。患者さんへの詳しい問診 23時に入眠、2時に目が覚めることあり。4時起床、6時30分出発、運転中に強い眠気。7時30分仕事開始。

それぞれの患者さんの睡眠障害への対応が必要である。

まとめ

十分な睡眠は健康を維持するために重要です。日々の生活を振り返って、睡眠について考えて頂きたい。心配な方は早めに受診してください。

 

今日の講演が皆様の健康に寄与出来れば幸いです。と締めくくり第23回市民公開講座は終焉となりました。

第23回市民公開講座

 ―食べること、健康であること、美しくあること、全ては人々の幸せのために!―

文責 太田新田歯科医師会 市民公開講座運営委員会 増田康展